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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

宇宙に行くと、視神経乳頭が腫れる

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宇宙では脳の圧力が高まる可能性も

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視神経乳頭が腫れている右目の眼底写真。うっ血乳頭では、こうした腫れが両目に出現する

 この状態が起こった理由として、飛行中に頭蓋内の圧力が高くなって、その圧力が眼球の奥にある両側の視神経に及んだ可能性を第一に指摘しています。この状態は専門用語では「うっ血乳頭」といい、頭蓋内に腫瘍などの余分なものができてしまった場合や、原因不明で髄液の量が増えて圧力が高くなった場合に起き、地球上でも生じる所見です。

 しかし、「SANS」の場合、飛行中に頭蓋内の圧力が本当に高くなるのかどうかはわかっていません。帰還後のMRI(磁気共鳴画像)では、脳全体は上に持ち上げられ、脳内の髄液が充満しているスペースである側脳室が大きくなっていることが指摘されており、宇宙飛行の間に生じた重要な身体変化として今後も注目すべき点です。

 視力の問題を自覚した例は、対象のうち1例だけだったのですが、これらの変化は次第に改善してくるのかどうかの情報は、まだありません。

 この変化が改善せずに続いた場合、宇宙空間の滞在時間が延びた場合や、年齢や遺伝的、目や脳における解剖学的個人差が、この症状にどう影響するかは全く未知です。

 「うっ血乳頭」は、初めのうちは視力に全く影響しませんが、治らずに長期化すると、やがては両目の視力を一気に失う事態になることを、我々医学者はよく知っています。

 それだけに、宇宙旅行が実現してきそうな現代、これは看過できない問題でしょう。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任し、15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人---心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」(青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半には講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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