大人の健康を考える「大人び」
医療・健康・介護のコラム
患者力(7)痛みの伝え方 難しく
このシリーズでは、元和歌山市医師会長で、田中内科医院(和歌山市)院長の田中章慈さん(71)に聞きます。(米井吾一)
肺がんの手術後、体中につながれたチューブやコードのうち、最も痛みを覚えたのは、手術をした左肺に入れられた「ドレーンチューブ」でした。これは皮膚の縫合箇所などから生じた出血を吸い上げる大事な役割があります。しかし、やや太くて弾力性があるため、体を少し動かすだけで、 肋間 神経などを刺激してピリピリとした痛みがありました。
どうすれば痛みを少なくできるのかということは、看護師さんに聞いてもなかなかうまく説明してもらえず、患者がいろいろ体を動かしながら習得しなければなりません。
痛みが強い時は、前回にお話しした通り、右手に握らされたレスキューボタンを押せばモルヒネなどの鎮痛薬が追加されるのですが、鎮痛薬を使うと不愉快なだるさを感じるため、ボタンを押すことを我慢することもありました。
そもそも医療者の側には、患者の痛みについては「我慢=良いこと」という考え方が根強くあります。
「痛みのない時を0、想像できる最大の痛みを10としたら、今の痛みはどのくらいですか?」。医師からこんな質問をされた経験のある人もいるでしょう。でも、患者の多くは、最大の痛みなんてなかなか想像できないものだから、「5くらいですかね」と適当に答えてしまう。患者がどうしてほしいのかを引き出すような質問の仕方が、もっとあるはずです。
痛みに襲われながらも鎮痛薬のボタンを押すことをためらうような患者の苦しみに、医療者は向き合ってほしいと思っています。
【略歴】
田中 章慈(たなか しょうじ)
1973年、和歌山県立医科大学卒。同大学助手を経て、和歌山赤十字病院第二内科副部長。85年、田中内科医院開設。2008年から13年まで、和歌山市医師会会長を務めた。日本臨床内科医会理事。
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