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アルコール依存症治療…減酒で心身回復図る

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アルコール依存症治療…減酒で心身回復図る

 アルコール依存症の治療は、酒を全く飲まない「断酒」が基本だが、途中で断念してしまう人が少なくない。最近、まずは飲酒量を減らし、心身の回復を目指す「減酒」が注目されている。

  最終的には断つ

 昨年8月、東京都八王子市の駒木野病院を男性(52)が受診した。焼酎1升(1.8リットル)を3日で空けるほど酒量が増え、妻子にからむなど家族関係もぎくしゃくした。「酒をやめる自信はないが、このままではよくない」。担当医の でん 亮介さんに相談すると、減酒を勧められた。

 最初に取り組んだのは飲酒習慣の見直し。飲酒の頻度や量などを書き出し、飲まない日を設けるなどの目標を立てた。酒を飲むと気分が悪くなる薬も処方してもらい、少しずつ飲まない日を増やしていった。

 半年後、二日酔いのない爽快さを感じるようになった。肝機能の数値も改善した。減酒のメリットを体験しながら、「最終的に患者の意志で断酒につなげていきたい」と田さんは話す。

 アルコール依存症は、酒を一日中飲み続けるなど、飲酒を自分でコントロールできない状態を言う。仕事中も我慢できずに酒に手が伸びる。酔いがさめるといらいらしたり、手が震えたりといった離脱症状が出て、また飲んでしまう。

 心身の状態も悪化し、うつ病などに苦しむ人も少なくない。家族や職場の同僚に迷惑をかけるなど、社会生活の継続を難しくしてしまうこともある。

 治療の基本は、飲酒を断ち、同時に離脱症状を抑えることだ。医師によるカウンセリングを中心とした心理療法、酒を飲みたくなくなる薬を使った薬物療法も併用する。

 アルコール依存症は「否認の病」とも言われ、本人が病気だという自覚を持ちにくい。治療の必要性を理解できても、なかなか一歩を踏み出せない。厚生労働省によると、推定58万人の患者のうち、専門的な治療を受けているのは1割弱に過ぎない。

  学会も「選択」明記

 アルコール依存症関連の学会などは昨年、治療指針を改訂し、軽症患者には減酒を治療目標とすることも認めた。断酒に応じない重症患者の場合も、減酒が選択肢になるとした。減酒で症状が改善したとする海外の研究成果を踏まえた。減酒を補助する新しい処方薬も近く使えるようになる。

 2017年4月に減酒専門の外来を始めた国立病院機構久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)。昨年末までに160人が訪れた。来院の理由は「酔いつぶれて記憶をなくす」「健康が心配」が多く、アルコール依存症の一歩手前か軽症の人が大半だった。

 医師の湯本洋介さんは「重症化する前に支援できるのは重要だ」と話す。患者と話し合い、飲酒量を減らす計画を立てる。「一口飲んだらコップをテーブルに置く」「酒の買い置きはしない」など、飲み過ぎないための指導も行う。

 厚労省が示す「節度ある適度な飲酒」は、アルコール摂取量で1日平均20グラムまで。ビールならジョッキ1杯程度だ。女性や高齢者はさらに減らすことが推奨されている。湯本さんは「依存症でなくても、1日平均で男性40グラム、女性20グラムを超えていれば、減酒を検討してほしい」と話している。

 (影本菜穂子)

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