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食べること 生きること~歯医者と地域と食支援 五島朋幸

医療・健康・介護のコラム

医師は口から食べるのを禁止、でも、大丈夫!

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 ある病院で入院中に誤嚥ごえん性肺炎を発症した高齢の女性がいます。その方は病院で検査を受け、口から食べることはできないと判断されました。熱も下がり、退院時に主治医に言われました。

 「今後、一切口から食べてはいけません。一粒の米も口に入れてはいけません。肺炎を起こして死にますよ。ご家族の方も鬼になってください」

 退院後、訪問診療を行う在宅の主治医から僕に、食べる機能の再評価の依頼がありました。訪問をして拝見し、退院1か月後には普通食が食べられるようになりました。

病院の食べる機能検査に注意

 なぜ病院で食べられなかった方が食べられるようになったのか。二つのキーポイントがあったのです。もし、このことを皆さんが知っていれば、ご家族や知人の方が病院で「口から食べてはいけない」と言われた時、何かのヒントになるかもしれません。

 まず一つ目のポイント。病院の判断はどうだったのでしょうか。病院で行われる食べる機能の検査というのは、体調万全、飲み込む訓練をやった上で実施されることは少ないのです。本人の体調よりも検査日時のほうが優先されたり、訓練もせず、口から食べていない禁食中に突然、検査をしたりします。それではおのずと評価は低くなってしまいます。その後、体調が安定しても最初の評価のままになってしまうことも多いのです。

 また、病院の主治医も患者さんをいじめたかったわけではありません。もし、誤嚥をして肺炎にでもなったら死に至るかもしれない。食べることを許可したら自分のせいになってしまう。とにかくそれだけは避けなくては、と思ったに違いありません。医療者のリスク管理です。

「口から食べると死ぬ」、医師の言葉がトラウマに

 在宅で口から食べられるように支援をしていると、病院で「口から食べると死ぬ」というような辛らつな言葉を浴びせられた方が多くいます。医療者の言葉ですから重く受け止めるだけではなく、トラウマになってしまい、口から食べることに恐怖を感じている方もいます。本人、家族ともそうです。

 僕たちのところへ「何とか口から食べたい」とか「口から食べられるようになってほしい」と訴えてくる方はごく一部で、医療者から言われたことを忠実に守り、「もう口から食べられないんだぁ」と思って、何のアクションも起こさない方のほうが多いのかもしれません。

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五島朋幸(ごとう・ともゆき)

歯科医師、ふれあい歯科ごとう代表(東京都新宿区)。日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授。新宿食支援研究会代表。ラジオ番組「ドクターごとうの熱血訪問クリニック」、「ドクターごとうの食べるlabo~たべらぼ~」パーソナリティーを務める。 著書は、「訪問歯科ドクターごとう1 歯医者が家にやって来る!?」(大隅書店)、「口腔ケア○と×」(中央法規出版)、「愛は自転車に乗って 歯医者とスルメと情熱と」(大隅書店)など

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3件 のコメント

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医療者のためのリスク管理

初めてのリハビリ病院

回復期リハビリ病院に家族が入院し、「医療者のリスク管理」にぶち当たった。主治医は「誤嚥性肺炎リスクを避けるため」という理由で、嚥下リハビリを中止...

回復期リハビリ病院に家族が入院し、「医療者のリスク管理」にぶち当たった。主治医は「誤嚥性肺炎リスクを避けるため」という理由で、嚥下リハビリを中止させた。嚥下リハが困難であったとしても、廃用が進まないようそれに代わる何らかの指示やアドバイスを期待したが、「この病院ではやらない」「転院を検討してはどうか」と言われた。これは、「その医師自身のためのリスク管理」でしか無いと思う。「決められた入院期間中に責任をとらなければならないようなことはしない。」という意味でしか無いと感じる。回復期では治療をしないことは理解しているし、多くの病状の患者を担当することになるわけだから、患者にとっても医師にとってもリスクは少ない方が良いのは分かる。しかし、急性期を乗り越え、一縷の望みをもって「回復」や「専門」という言葉に期待して長期間入院することとなる患者や家族が、主治医の言葉に絶望するようなことが実際に起こっているのは残念である。

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末期の水

ユキー

最期を迎える人に水を与える事を「末期の水」という。 (自覚があったのかは不明だが。) 当人が希望しているのに、拒否し、脅してまで飲ませない。 患...

最期を迎える人に水を与える事を「末期の水」という。
(自覚があったのかは不明だが。)
当人が希望しているのに、拒否し、脅してまで飲ませない。
患者の事より、自分がいかに死亡者を出していないかを考える医者の行動。
当時は神様にでもなった気の人が多かったんだな。
遺族にとっては心残りだったと思う。
同じ最期なら、飲んで満足して旅立って貰いたかったよね。

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昔、入院中に

すなめり

若い頃、交通事故で入院をした。頭蓋骨を骨折していたので、そこそこ重症だった。 一緒の部屋に、あとから入院してきたお老婦人が、何日目かの深夜に容態...

若い頃、交通事故で入院をした。頭蓋骨を骨折していたので、そこそこ重症だった。
一緒の部屋に、あとから入院してきたお老婦人が、何日目かの深夜に容態が急変した。
婦人はしきりにΓのどが乾いたよ、お水が飲みたいよ」と付き添いの家族に訴えている。家族がそれを看護婦さんに伝えると、看護婦さんは医師に相談をしたらしい。
お医者サマが来て、家族に言った。
Γいま飲み物を与えると、誤咽を起こす可能性があります。また、水を飲んで安心感が生まれると、気持ちが緩んでこと切れることもあります。辛いでしょうが、我慢をしてもらって下さい。」
だが婦人は朝を迎えずに亡くなった。Γお水を飲ませておくれよ」と懇願しながら。

彼女の最期に水を飲ませてあげられなかった家族は、そのあとどうして日々を過ごしたんだろうかと、いまでも思う。

もう、35年も前の出来事ですが。

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