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渡辺専門委員の「しあわせの歯科医療」

コラム

新潟県の子どもはなぜ、虫歯が少ない?

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フッ素入りの水でのうがいを推進

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 虫歯菌は酸を作って歯を溶かしますが、フッ素はカルシウムなどを歯に取り戻す再石灰化を促して歯を強くしてくれます。さらに、フッ素を含んだ歯の組織は、普通の歯よりも丈夫で酸に強くなります。特に乳歯や中学生ぐらいまでの永久歯は歯の質が弱いので、この時期のフッ素洗口は虫歯予防に効果があるとされています。1971年には日本歯科医師会がフッ素の利用を推奨する見解を発表。欧米では水道にフッ素を加えている地域もあるほどで、日本でも現在、市販の歯磨き剤の多くにフッ素が入っています。

 弥彦小での虫歯減少の成果もあり、新潟県は1975年に学校でのフッ素洗口の補助制度を創設して普及を目指しました。様々な「公害」が社会問題になっていた時代。健康への影響に不安を感じてフッ素の使用に反対する声もあったようですが、歯科医が効果や安全性について説明に回ったそうです。そして、1981年に県は「むし歯半減10か年運動」をスタート。保育園、幼稚園、小・中学校でのフッ素洗口のほか、歯科でのフッ素塗布を進め、学校検診後に問題を指摘された子どもが受診したかどうかを学校で管理する体制も整えていきました。

新潟県の小学校でのフッ素洗口実施率89%、全国は19%

 県や市町村、歯科医師会、新潟大学が連携しながら、学校を軸に歯の予防と管理を進めていったというわけです。2008年に県は全国に先駆けて「歯科保健推進条例」を制定。フッ素の利用を盛り込んだ歯科保健の推進体制は現在も続いています。新潟県の小学校でのフッ素洗口の実施率は89%、全国平均は19%です。

 葭原さんは「フッ素洗口は重要ですが、それだけではありません。甘い物は時間を限って摂取するといった生活指導や、歯磨きやフロスの指導。さらに歯科検診後に治療や予防処置が必要な子どもたちが歯科を受診したかどうかを、学校でフォローする体制を整えたことも虫歯の減少に効果がありました」と話しています。 口腔(こうくう) 保健推進の起点になった弥彦小学校を、葭原さんたちは「予防歯科の聖地」と呼んでいます。この小学校の名前は地元新潟だけではなく、子どもの歯に関心のある歯科関係者の間では広く知られているそうです。

小学生の虫歯は学校の取り組みで減らせる

 新潟県の経験を見ると、小学生のむし歯はフッ素の活用を含め学校の取り組みで減らすことができそうです。厚生労働省は2003年に「フッ化物洗口ガイドライン」を発表し、フッ素洗口推進の方針を明確に打ち出しています。4歳児から老人まで虫歯予防に有効で、安全性に問題はないとして、フッ素洗口の具体的な方法も示しています。これを受けて、全国の自治体の取り組みが活発化し、幼稚園や保育園、小学校、中学校でのフッ素洗口は増えてきました。賃金グラフの右寄りにある佐賀県なども、積極的に取り組んで虫歯の減少に成果を上げてきました。

フッ素洗口に反対する声も

 各地が新潟のようにフッ素洗口や歯科教育など歯科保健活動を進めていけば、地域間の格差は縮小していきそうなものですが、そうはいきません。フッ素利用には反対の声もあり、学校での導入に足踏みする地域も少なくないからです。例えば、日本弁護士連合会は2011年に「集団フッ素洗口・塗布の中止を求める意見書」を厚労省、文科省、環境省に提出しています。安全性、有効性、必要性に否定的な見解もあるのに、学校など集団での実施は自己決定権を侵害するという趣旨です。

 小学校でフッ素洗口を実施するには、行政と教育委員会が意思を統一して、それから学校の意見を聞いて、さらにPTAの了解も得ていく手続きや予算が必要です。国が「安全」と判断して推進の旗を振っても、見解の相違があり、簡単には進まないようです。指導的な立場のある県の歯科医に「フッ素洗口は広がっていますか」と尋ねると、「うちの県は反対する教職員の団体が強いから無理」と話していました。

 日本の医療文化なのでしょうか。風邪はウイルスが原因ですが、効果がないにもかかわらず、細菌を殺す抗菌薬(抗生物質)が広く処方されてきました。こうした「治療」を名目にした薬物の乱用に反対する社会運動は起こりませんが、集団で行うという要素があるとは言え、「予防」に薬物を使うとなると、激しい反対論が巻き起こって公共政策を左右する傾向があります。

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★【完成版】しあわせの歯科医療2 300-300

渡辺勝敏(わたなべ・かつとし)
読売新聞記者(メディア局専門委員)。1985年入社。 秋田支局、金沢支局、社会部を経て97年から医療を担当。2004年に病院ごとの治療件数を一覧にした「病院の実力」、2009年に医療健康サイト「ヨミドクター」を立ち上げた。歯科については歯茎や歯根があやしくなってきた10年来、患者としても関心を持たざるを得なくなっている。立命館大学客員教授。

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1件 のコメント

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格差社会進行時における予防医療の意味

寺田次郎 フメイヨークリニック院長予定

フッ素利用は賛否両論があって、それを記載されているのが良いと思います。 ワクチンも、抗生剤もそうですが、体にいいものとされるものや行為でも細分化...

フッ素利用は賛否両論があって、それを記載されているのが良いと思います。
ワクチンも、抗生剤もそうですが、体にいいものとされるものや行為でも細分化して考えるとその限りでないことがよくあります。
そういう意味でも、歯の健康に関心が大きいというのが一番のポイントなのかもしれないですね。

所得格差は食事や間食の違いだけでなく、知識や生活習慣の違いを生み出す土壌ですが、虫歯は虫歯のみならず、感染性心内膜炎など身体疾患の原因にもなりますので、予防歯科に関する取り組みの財源の確保も含めて色々と議論が必要そうですね。
虫歯は確かに良くないですが、程加減を弁えた間食は心身の健康に良いものです。

財布と健康に悪いものほど美味しいと言いますが、そういうリテラシーまで含めて予防教育が進むといいです。

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