心療内科医・梅谷薫の「病んでるオトナの読む薬」
医療・健康・介護のコラム
酒のせいで父は借金、兄は病死、暴れる夫と離婚 「怖さ」教えた長男も…母娘がたてた「ある計画」
追い詰められた母と娘のプラン
2週間後、彼女は少し緊張した面持ちで外来にやってきた。
「先生、娘と何度も相談して決めました。この方法でよいかどうか、教えてください」
追い詰められたJ乃さんと娘さんのプラン。それは、「家を捨てる」というものだった。
母親と同居する長男は、大暴れしても本人の記憶はなく、いつもJ乃さんが尻拭いをしていた。借金の立て替えもし、いつも迷惑をかけた人たちに謝っていた。それが母親としての当然の役割だと思い、実は、親として「誇り」に思うことすらあった。
「それって、絶対間違いだと思うんです」
そう力説したのは、一緒に来た娘さんだった。
「お母さんがそうやって甘やかすから、お兄ちゃんは、いつまでもよくならない。でも、いくら自立するように言っても、お兄ちゃんは出て行かないでしょう。だったら、お母さんが出て行って、少しは自分で自分の責任を取らせるべきなんです!」
娘さんは、自分の思いに母親の苦悩を重ねたような口調で、一気にそう語った。
一方、J乃さんはまだ迷っていた。本当にそんなことをして、息子は大丈夫なのだろうか……。それでも、残された方法はあまりない。
「本当に、それでいいんですね?」
と問いかけると、彼女はあらためて決意したような表情で、黙ってうなずいた。
「これが私なりの子孝行」
計画はひそかに準備され、実行された。隣町にワンルームのマンションを借り、長男が気づかないように、少しずつ生活用品を新居に移してゆく。そして、長男が「遅く帰る」と言っていた日、大きな荷物をまとめて一気に引っ越した。引っ越し先は教えない。娘さんを通して、一応連絡を取ることはできるようにした。
息子さんは残された書き置きを読んで、さすがに驚いた様子だったようだが、その後、表だった動きはなかった。そして彼女にとって、これまでにないほど静かな生活が訪れた。
「やはり、親として間違っているんじゃないかって、ずいぶん自分を責め続けました」
J乃さんは、1か月ぶりの外来でそう話した。
「心配で心配で、毎日、携帯を握りしめて、息子の番号にかけようかと思い悩んだ。でも頑張って、かけないようにしました。これは、息子が立ち直るために必要なこと。いつかきっと、本人もわかってくれる。そう自分に言い聞かせて頑張ったんです……」
彼女が心配したほどひどいことは起きなかった。息子さんの酒癖は相変わらずのようだったが、警察から連絡がくることはなくなった。お金の無心は、娘さんにも来ていないという。
「サラ金に手を出していないか心配ですが、今は黙って様子を見守っています。これまでお酒に振り回されて、きちんと自分で責任を取ることを教えきれなかった。本当に必要になった時に、いつでも助けてやれるように、まずは私が元気になっておかなきゃって思えるようになりました。これがきっと私なりに、『子孝行』をするということなんでしょうね……」
J乃さんは、以前よりずっと明るい表情で、そう話してくれたのだった。(梅谷薫 心療内科医)
*本文中の事例は、プライバシーに配慮して改変しています。
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この医師の考えが書いてないから言えないけど、タイトルの酒のせいって何? そこは医師が指摘するべきだろう、何で酒のせいなの?じゃー包丁で人殺したら...
この医師の考えが書いてないから言えないけど、タイトルの酒のせいって何?
そこは医師が指摘するべきだろう、何で酒のせいなの?じゃー包丁で人殺したら「包丁のせい」なの?車で人轢いたら「車のせい」なの?違うでしょ?
こんなもの酒何か関係ない、本人のせいでしかない、そう考える時点で母親は可笑しいし、ん愛も考えていない。未だに何かあった時助ける為に・・とか 子孝行とか言ってる・・この考えが良い年をした子供をダメにしていると気づかないといい加減子離れしないと、その辺りの患者への指導はどうしているのか気になる所ではある。
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