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心療内科医・梅谷薫の「病んでるオトナの読む薬」

コラム

酒のせいで父は借金、兄は病死、暴れる夫と離婚 「怖さ」教えた長男も…母娘がたてた「ある計画」

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 「これ以上、打つ手はないんでしょうか?」

 と、J乃さんは沈痛な表情で話し始めた。

 64歳の女性。長年の苦労のせいか年齢より老けて見られることも多い。診断名は「抑うつ状態」。気分が沈む日が多く、わけもなく涙が出る。眠りが浅くて、日中もだるさが抜けない。

 J乃さんには息子と娘がいるが、娘は独立し、今は36歳の長男と二人暮らし。毎日の心配の種は、その長男の「酒癖」だ。会社員で、営業部の係長。毎日のように「仕事のつきあい」だと言って、飲み歩いては、酔っ払って帰ってくる。実際は仕事と関係なく、ただ惰性のように飲み歩いているのだ。

 普段はおとなしくて穏やかなのに、酒を飲むと 豹変(ひょうへん) して大暴れする。ちょっと注意すると、逆ギレする。家具を壊しては、J乃さんを 恫喝(どうかつ) する。尋常ではない形相の息子を見るたび、震え上がって黙るしかなかった。

 警察には何度もお世話になった。飲み屋で大 喧嘩(げんか) をして店の物を壊したり、路上で眠り込んでしまったりする。J乃さんは、何度も迎えに行って頭を下げ、顔見知りになった警官から気の毒がられたりした。

父は飲んで暴力、兄はアルコール性肝硬変、夫は…

  J乃さんの家系は、みな酒が強い。父親が 大酒家(たいしゅか) で、母親はずいぶん苦労した。家の金は全部飲み代になり、借金まみれ。子ども時代は、父の暴力や暴言におびえる暗い日々だった。

 兄は、医師にアルコール性肝硬変と言われ、60歳を前にして、血を吐いて死んだ。

 J乃さんは、酒飲みを嫌って、そうでない夫と結婚した。しかし、夫はいつの間にか酒を飲むようになり、家で大暴れして、とうとう離婚になった。

 だから、長男にはいつも「酒の怖さ」を話していた。それなのに……。J乃さんは、絶望的な気持ちになった。

 もちろん、じっとしていたわけではない。長男を救うため、必死に治療法を探した。アルコール専門外来に行って相談し、いやがる息子を説得して受診させた。しかし、「自分は普通なのに、すぐ病気だと言って金を取る。あんなとこ行かない!」と言って、通院をやめてしまった。断酒会やAA(アルコホーリクス・アノニマス)という自助グループにも行かせたが、「あの連中は病気だ。一緒にいると病気がうつる」と言う。

 専門外来に頼みこんで、「酒を嫌いになる」という薬の新しいタイプを処方してもらったのだが、「この薬を飲むと気分が悪い」と、飲むのをやめてしまった。

 「このままでは、死んでも死にきれません。何とか息子を救う方法はないのでしょうか?」

 J乃さんの表情は切羽詰まって見えた。

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梅谷 薫(うめたに・かおる)
 内科・心療内科医
 1954年生まれ。東京大学医学部卒。90年から同大学で精神科・心療内科研修。都内の病院の診療部長、院長などを経て、現在は都内のクリニックに勤務。「やまいになる言葉~『原因不明病時代』を生き抜く」(講談社)、「小説で読む生老病死」(医学書院)など著書多数。テレビ出演も多い。

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1件 のコメント

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何だろう違和感

たけ

この医師の考えが書いてないから言えないけど、タイトルの酒のせいって何? そこは医師が指摘するべきだろう、何で酒のせいなの?じゃー包丁で人殺したら...

この医師の考えが書いてないから言えないけど、タイトルの酒のせいって何?
そこは医師が指摘するべきだろう、何で酒のせいなの?じゃー包丁で人殺したら「包丁のせい」なの?車で人轢いたら「車のせい」なの?違うでしょ?
こんなもの酒何か関係ない、本人のせいでしかない、そう考える時点で母親は可笑しいし、ん愛も考えていない。未だに何かあった時助ける為に・・とか 子孝行とか言ってる・・この考えが良い年をした子供をダメにしていると気づかないといい加減子離れしないと、その辺りの患者への指導はどうしているのか気になる所ではある。

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