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『認知症がやってきた!』著者の酒井章子さん

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疎遠だった母の介護は「まるで子育て」…『認知症がやってきた!』著者の酒井章子さん(下)

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 新刊『認知症がやってきた! ママリンとおひとりさまの私の12年』(産業編集センター)を執筆した酒井章子さん(59)を翻弄し続けた母親の妄想や 徘徊(はいかい) は、認知症がさらに進行すると、次第に影を潜めていった。ずっと疎遠だった親の介護に奮闘した日々は、シングル女性の生き方をどう変えたのか。穏やかな暮らしを取り戻した著者に、今の思いを聞いた。(ヨミドクター 飯田祐子)

「わすれびとさ~ん」は勝利宣言

疎遠な親を介護して、「子育てってこんな感じ?」…『認知症がやってきた!』著者の酒井章子さん(下)

撮影・高梨義之

 ――数年前から、母のアサヨさん(91)の症状が落ち着いてきたとのことですが、あの激しい徘徊もおさまったのですか。

 2015年の夏が過ぎた頃から、記録ノートに「徘徊がなかった日」の印としてつけていた○マークが増えていったのです。いつ復活するかと半信半疑のままだったのですが、16年の春になると、自分から外へ出ようとはしなくなりました。

 母の口から、「あっこがいてくれるから、忘れても大丈夫なんです。私はわすれびとさ~ん」という衝撃的な発言が飛び出したのも、この頃です。

 重度の認知症の人が、自分が忘れることを認識し、学習し、「わすれびとさ~ん」という新しいキャラクターを生み出した。母が、認知症との長きにわたる死闘を制し、「勝利宣言」したように私には思えました。

 ――現在は、どのように過ごしているのですか?

 それからは、できないことが一つ、また一つと増えていきました。今は着替えにもトイレにも介助が必要ですが、素直に受け入れてくれるので本当に楽です。病気としての認知症は前よりも進んでいるのでしょうが、はた目には、ただのカワイイおばあちゃん。認知症かどうかということは、老いが進む中では大した問題ではなくなっていくように感じます。

 大好物の薄皮つぶあんぱんをかじって、「おいしいわあ~」とニコニコしている姿は無邪気としか言いようがありません。「童女」という言葉がぴったりです。

 奈良の実家から、私が暮らす大阪に母を引き取ったばかりの頃は、甘い物にここまで目がないとは知りませんでした。母が門司(北九州市)で過ごした子供の頃や結婚前に大阪市内で看護婦をしていた時代のことなども、元気なうちにいろいろ聞いておけば、妄想や徘徊にもう少し上手につきあえたんじゃないかと思うと、ちょっと残念です。

認知症の「フルコース」を経験…本にして役立てたい

 ――今は、親子が逆転している感じでしょうか?

 完全に逆転していますね。母の寝顔を見ていると本当にかわいくて、私は子供を持ったことがないのですが、「子育てってこんな感じなのかな」なんて考えたりします。2人の穏やかな生活には、不思議な幸福感があります。

 母は大きな持病もないので、内科の医師からは「好きなものを食べさせてあげていいですよ」と言ってもらっています。これが本当の子供だったら、将来のことを考えてあんまり甘やかすわけにもいきませんが、そう長くない老い先ですから、楽しく過ごすのを最優先にしています。

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妄想や興奮が激しかった頃のアサヨさんも、飼い猫のジェフを膝の上に乗せると、落ち着くことがあった

 母自身、過去や未来を憂うことなく、「今」だけをゴキゲンに、穏やかに生きています。認知症の人の人生もいろいろでしょうが、母は混乱の時代をやっと抜け出して、認知症の「勝ち組」になったんじゃないかと思っています。

  ――苦しかった時期を乗り越えたいま、介護体験を本にしようと思ったのはなぜですか?

 アルツハイマー型認知症は、人によって表れる症状が違うといわれるのですが、うちの母は全部、出ました。いろんな人の症状を一身に集めたような感じで、まさに「フルコース」だったんです。

 だから、この経験をまとめたら、認知症のことは一通り分かるような本ができると思いました。これから認知症に接する人たちの役に立つんじゃないかと考えたんです。

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