いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち 松永正訓
医療・健康・介護のコラム
[障害胎児]中絶巡り割れる米、出生前診断盛んな英仏…独6代連邦大統領「人間であることに基準などない」に学ぶ
障害のある胎児や、障害を持って生まれてくる赤ちゃんに対して、海外ではどのような対応をとっているのでしょうか? この問題を整理していくと、逆に日本の特性が浮かび上がっていきます。幼い生命に対する欧米諸国の考え方のキーワードは、宗教と母親の権利意識にあるように感じられます。
ここにも「二つのアメリカ」が
アメリカは多民族国家であると同時に、分断国家であるともいわれます。オバマ前大統領は、「二つのアメリカ」を一つにしようとしましたが、トランプ現大統領は、貧困層に転落しようとしている中間層に強く肩入れする形で、アメリカの分断を際立たせています。

【名畑文巨のまなざし】
5年前に初めて撮影したダウン症のはるなちゃん、昨年、成長した姿を撮影してきました。前回と同様、撮影が始まると満面の笑みが次々と出て、エネルギー全開です。障害のある子どもはみんな心が純粋で、接していると癒やされていく感覚があります。ママも同じダウン症の子を持つママ友たちと集まった際、「こんな素敵な子育てを、(出生前診断で)諦めてしまうのはもったいない、私たちみんな幸せだよね」と話しているのだとか。それを聞いて、「やはりそうなんだな」と納得しました。京都府にて
人工妊娠中絶に関しても、それは同様です。1973年の「ロー対ウェイド事件」は、政治と宗教をめぐるアメリカで最も白熱した論争でした。女性解放運動の象徴的存在であったジェーン・ロー(身元を隠すための仮名)は、女性の権利として人工妊娠中絶の自由を求め、中絶を禁じるテキサス州地方検事ヘンリー・ウェイドを訴えます。
米連邦最高裁判所はローの主張をくみ取り、中絶を規制する法律を無効とします。妊娠を継続するか否かに関する女性の決定は、プライバシー権に含まれると判断したのです。ロー対ウェイド判決は、女性の権利を守るアメリカでは非常に重要な出来事になりました。現在でも、女性たちはこれを死守しようとしています。ところがトランプ政権の中には、ロー対ウェイド判決に否定的な考えを持つ人もいます。
パーソン論「自己意識がない個体は生命を絶たれても…」
元々、共和党には、キリスト教カトリック派の信者が多く含まれています。伝統的カトリックの教えでは、受精卵ができた瞬間に生命が宿り、人工妊娠中絶は神の教えに反する、絶対に許されないものです。ちなみにカトリックでは、避妊も神の教えに背くのですが、ここでは深入りしません。
京都大学の山中伸弥教授がiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作ったとき、その研究の意義を論文の冒頭で説明しています。それまでは、不要になった受精卵からES細胞(胚性幹細胞)を培養していました。山中先生は、成人の皮膚から分化万能性のある細胞を作ることで、移植した時の拒絶反応を防げるのに加え、受精卵を壊す必要がないので倫理的問題をクリアできると強調したのです。
このことは、アメリカでは、女性のプライバシー権として中絶が自由である一方、受精卵が生命であるという保守的な考えも根強く存在することを示しています。
女性の選択の権利を何よりも重要と考える人たちを、プロチョイス派と言います。受精卵を含めて、胎児には命があると考える人たちをプロライフ派と言います。プロライフ派の人たちから見れば、すべての中絶は殺人になります。中絶を行う産科医院がプロライフ派の人たちに襲撃されたというニュースを耳にした人もいるでしょう。
では、プロチョイス派は、胎児に生命があるとは考えないのでしょうか? プロチョイス派の人たちは、しばしばパーソン(人格)論を持ち出します。命はあっても、自己意識がない個体は、生命を絶たれても倫理的に問題はないという考え方です。この考え方を強めていくと、障害のある新生児の治療を停止しても問題ないことになるし、知能の高い動物は、場合によっては人よりも命が尊いとされることになります。欧米や豪州でクジラを守ろうとする考え方にもつながっています。
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