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『認知症がやってきた!』著者の酒井章子さん

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3000キロの徘徊で知った大阪人の温かさ…『認知症がやってきた!』著者の酒井章子さん(中)

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みんな親切をしたがってるんや

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撮影・高梨義之

 ――それだけ徘徊が激しいと、一人で見守るのは不可能です。

 助けてくれたのは、警察だけじゃありません。

 母は、デート中のカップルでも、携帯で通話中の人でも、構わず呼び止めて道を聞くので、こっちはヒヤヒヤしどおしでした。ところが、どの人も声をかけられると、足を止めて助けようとしてくれるんです。

 知らないおばあちゃんがひつこく道を聞いたりしたら、迷惑そうにされるか無視されると思ってたんですけど、そんなことする人は一人もいなかった。大阪の街が、こんなに優しい人ばかりだなんて、最初はちょっと信じられないくらいでした。

 それでも私としては、やっぱり恐縮してしまうところがあったんですが、ある時、ケアマネジャーさんに「いろんな人がお母さんと出会うことで、みんなが認知症のことを考える機会になっているんですよ」と言われまして。それを聞いて、また肩の荷がストーンと落ちました。

 それに、母に「ありがとうございます」って言われると、どの人もうれしそうにしてるんですよ。実は、みんな親切をしたがってるんやと思いました。

 ――アサヨさんは、「親切にしてもらっている」というより、「親切にする機会を人に与えている」?

 私もそうでしたが、日本人は「人に迷惑をかけたらいけない」という思いこみに、がんじがらめに縛られてるんです。それで、困ってる人が遠慮して「助けて」と言わないので、親切にしたいと思っている人も、親切をする機会がないんですよ。

 この思いこみをちょっと緩めて、困っている人が手を上げられるようになれば、助けてくれる人がどんどん出てきて、知らない者同士でも、ちょっとした支え合いが当たり前になる。そうしたら、社会全体が優しくなるんじゃないかと思います。

「迷惑かけたくない」が一番迷惑

 ――他人に迷惑をかけまいとする意識が強すぎると、介護を家族だけで抱え込んでしまう心配もあります。

 家族だけでなんとかするなんて、ムリムリ。でも、日本人の「迷惑かけてはいけない病」は本当に重症で、家族の間でさえ、互いに遠慮してばかりです。どの親も「子供には迷惑をかけたくない」と口をそろえて言いますが、お金をためたり、認知症保険に入ったり、できる限りの備えをしておいても、ひとたび介護が必要になったら周りに迷惑をかけないことなど不可能なんです。

 だったら、「お任せします」とゆだねてくれた方が、世話をする側も楽。実は、「迷惑かけたくない」と頑張るのが一番迷惑なんですよ。

 思い返せば、母の徘徊も「ここにいたら迷惑なので、自分の家に帰ります」から始まりました。私の世話になりたくないという一念で、ずっとあがき続けていたんじゃないでしょうか。

 それが3年ほど前から、自分で何とかしようとするのをやめて、私に任せてくれるようになったんです。すると、介護がものすごく楽になって、母自身も穏やかに過ごせるようになりました。

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アサヨさん(右)の徘徊の合間に街のカフェで休憩する酒井さん母子(映画「徘徊~ママリン87歳の夏」から)

 ――自分でどうにかするのは無理だと諦めたのでしょうか。

 諦めたというより、慣れたんじゃないでしょうか。最初に認知症と言われてから、この状態に慣れるまでに9年かかったんですよ。

 確かに、医師からは「今は大変でしょうが、そのうちもっと楽になりますよ」と言われていました。渦中にいるときは、これがいつか終わるなんて想像もできなかったのですが、「明けない夜はない」とは、よく言ったものです。

 途中、老人ホームでプロに面倒を見てもらった方が、本人のためにもいいんじゃないかと思うこともありました。でも、徘徊と暴言があまりに激しく、デイサービスをクビになったことがあるほどですから、受け入れてくれる施設があるとは思えませんでした。「母親が子供にかかり切りになるのは、だいたい10年くらい。育ててもらったお返しに、私も10年間は頑張って介護をしよう」と、心の中で期限を決めたおかげで、なんとか乗り切ることができました。(つづく)

  さかい・あきこ  1959年、大阪市生まれ。大阪芸術大学卒業後、情報誌の編集者や編集プロダクション主宰などを経て、2001年に大阪・北浜で「10W gallery」をオープン。15年、母のアサヨさんとの暮らしぶりを撮影したドキュメンタリー映画「徘徊~ママリン87歳の夏~」(田中幸夫監督)が公開され、話題になった。

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