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『認知症がやってきた!』著者の酒井章子さん

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3000キロの徘徊で知った大阪人の温かさ…『認知症がやってきた!』著者の酒井章子さん(中)

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 妄想や暴言など、認知症の母の激しい症状に翻弄された体験を新刊『認知症がやってきた! ママリンとおひとりさまの私の12年』(産業編集センター)につづった酒井章子さん(59)。中でも、 徘徊(はいかい) は7年間で3000キロメートルを超えるすさまじさだった。真夏の炎天下も、木枯らしが吹きすさぶ冬の夜も、大阪の街をどこまでも歩く母を追う中で、新たな発見もあったという。(ヨミドクター 飯田祐子)

「引き留めても無駄」と悟り…

徘徊の母を追って3000キロ! ナニワの人情に救われて…『認知症がやってきた!』著者の酒井章子さん

外に出たアサヨさんの後を少し離れて追う酒井さん(映画「徘徊~ママリン87歳の夏~」から)

 ――激しい徘徊には、母のアサヨさん(91)の尋常ならぬパワーを感じます。その様子は、酒井さん母子を追ったドキュメンタリー映画「徘徊~ママリン87歳の夏~」(2015年、田中幸夫監督)にも記録されています。

 夕食をすませると、たいてい「家に帰る」と言い出すんです。どの家かといえば、47年間暮らした奈良の自宅だったり、母が生まれ育った門司(北九州市)の実家だったりするんですが、「分からへん」ということも多かったです。過去に住んだどの家とも違う、母の頭の中だけに存在する家があったのかもしれません。

 こっちは、「もう遅いから泊まっていったら」なんて、言いくるめようとするのですが、そうすんなりうまくはいきません。なだめたり、すかしたり、即興でひと芝居打つなんて朝飯前で、しまいには猫まで動員しました。そして、あらゆる説得工作が失敗に終わり、外へ出ようと玄関のドアをけり上げる母を前にして「引き留めても無駄」と悟りました。気が済むまで歩かせることにして、母が外へ出たら四の五の言わずについていくと決めたら、気持ちの上では楽になりました。

80代の母と夜通し歩く

 ――そうはいっても、突然に始まって、いつ終わるとも分からない徘徊に付き合うのは、並大抵のことではありません。

 最初のうちは、1時間も歩くと途方に暮れた様子を見せ始めるので、そこで声をかけると、「よう見つけてくれたなあ」と言って素直に帰宅してくれました。ところが、そのうちに時間と距離がどんどん伸びて行ったんです。

 徘徊が始まった当時、すでに80代だった母ですが、足腰は丈夫で体は健康そのもの。徘徊中はアドレナリンが出ているのか、疲れ知らずでタッタカと歩いて行きます。昼夜を問わず外へ出るようになり、1時間2時間は当たり前、3時間4時間でようやくちょっと休憩という感じで、一晩中歩いて、朝を迎えるということも月に何度かありました。

 2010年からブログを始めて、日々の出来事を記録するようになったのですが、4年間で1844キロメートル、1730時間も歩いていました。その前後の3年間を加えたら、7年間で3000キロメートル以上歩いた計算になります。

 ――3000キロというと、日本列島縦断と同じ距離です。

 母を介護する上で、いくつかルールを作っていました。母の行動に困った時、どう対応するか悩むのは邪魔くさいので、「こういう場合はこうする」と決めてしまうんです。その一つが、「歩いた分だけ歩いて帰る」。さんざん歩いた母がやっと帰る気になる頃には、2人ともくたくたなのですが、タクシーなど使わずに必ず歩いて帰ります。

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撮影・高梨義之

 母にも、「歩いた分だけ歩いて帰るんやでぇ。行きはよいよい帰りは怖い」などと言い続けました。不思議なことに、同じことをずっと言われ続けていると、認知症の人でも、脳に情報が刷り込まれるようなんです。何もかも10秒で忘れてしまう母も、この言葉をささやくと、ぴたりと足が止まるようになりました。

 この手は効きましたね。母に、「困ったら、お巡りさんやで」と言い続けていたら、道行く人に「警察はどこですか」と聞くようにもなったんです。

 私が気づかないうちに外に出てしまう場合もあり、警察には何度となく保護してもらいましたが、「しっかり見ておきなさい」なんて叱られることもなく、本当に頼もしかった。「最後は警察が見つけてくれるから大丈夫」と思うことで、肩の荷がどれだけ軽くなったことか。ただただ、感謝です。

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