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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

電子カルテ化の意義 何よりも患者のために

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電子カルテ化の意義 何よりも患者のために

 「日本再興戦略」改訂2015、副題に「未来への投資・生産性革命」と付けられた首相官邸発の文書の、鍵となる施策の一つに「電子カルテの普及促進」が掲げられています。そして、2020年度までに、地域医療において中核的役割を担うことが特に期待される400床以上の一般病院における電子カルテの全国普及率を90%に引き上げる目標が記されています。

 電子カルテの導入には、診療の効率化、待ち時間の短縮などさまざまなメリットが挙げられ、もはや国是として進められ、導入しないのは時代遅れという雰囲気にさえなっています。

 私ども眼科専門病院でも、今年1月に電子カルテ化を実現したところです。

 今のところ診療時間、それに関わる患者の待ち時間は長引き、医師たちは一様に疲れた表情です。私もそうです。操作に慣れないせいでしょうか。患者に向き合わずに、電子カルテの画面ばかり見ていなければならないストレスからでしょうか。

 確かに「未来への投資・生産性革命」の面から、つまり医療の経済性や能率性の面からは大きな意味があるかもしれません。しかし、それは医療の質が維持、もしくは向上していることの証左にはなりません。

 私が使っていて懸念するのは、医師の思考の入る余地がいつの間にか狭められ、ロボットのように前回診察時と同じボタンを押すだけになりがちなことです。そのほうが、時間もかからず楽ではあります。

 電子カルテでは、「データが一目瞭然」という利点があるといわれます。ですが、眼科のように多種の検査事項がある場合には「一目」とはゆかず、必要な結果をこちらから探しにいく必要があります。探し当てた検査結果は時系列になっていても、そこに付随する医師の思考過程は一目瞭然ではありません。

 自分だけがその患者を継続して担当している場合でも、思考の連続性は電子化カルテ上からはうかがい知れません(大勢の患者を担当している医師個人の記憶は頼りになりません)。まして、医師の変更などがあれば、臨床的思考の継続性はその都度、途切れることになります。

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任し、15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人---心療眼科医が本音で伝える患者学」、「健康は眼に聞け」「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、医療小説「茅花流しの診療所」(同)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半には講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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