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在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活

コラム

その「刻み食」が、むせ込んでしまう原因かも?

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 歯科で治療を受けた後、一時的に咀嚼力が低下して、「やわらかいものしか食べられなくなった」という経験はありませんか。

 私は中学生のころ、歯茎に「親知らず」が生えるスペースがありませんでした。そこで、中学生の時に上下左右すべての親知らずを抜きましたが、一度に全部抜くわけにはいかず、時期をずらしながらの抜歯となりました。そのたびに食べ物をうまく噛むことができなくなり、クタクタに煮たうどんや、小さく刻んだおかずばかりを食べていました。

 しかし、歯茎が腫れてしまったことで食べ物を口の中で処理できず、結局は噛まずに丸飲みしていたことを覚えています。

 咀嚼力が低下した方に、食べ物を小さく刻んでお出しすることは介護現場でよく見られる光景です。「刻む」ことは、本当に「咀嚼力を補う」ことになるのでしょうか。

「咀嚼する」とは食べ物を「飲み込める形」にすること

せっかくの「刻み食」が裏目に出ちゃう可能性もあるんです

 咀嚼するときには、前歯で食べ物をかじり取り、口・舌・頬・顎が連動して、食べ物を噛み切ったり、すりつぶしたりします。さらに唾液と混ぜ合わせて、舌の上で飲み込める形にします。これを「食塊」と呼びます。カスタネットのように、ただ顎を上下にカチカチするだけでは、食べ物を食塊にすることはできません。
 例えば、「せんべい」を食べる時、口の中で処理できる量だけ前歯でかじりとり、奥歯でせんべいをつぶしながら唾液と混ぜ合わせていきます。その時、唇はしっかりと閉じて、頬は歯の側面に密着して、食べ物が歯の上に保持されるように働きます。そして、舌が食べ物を上あごに押し付けて、ゴクンと一気に食道へ送ります。
 
 このとき、食べ物がまとまらずパラパラとしたままだと、一部が誤って気管に入ったり、食道の入り口に残ってしまったりすることがあるのです。もし、脳梗塞の後遺症などで舌や頬に麻痺があれば、無意識に行っているこれらの働きがうまく機能せず、「食塊」を作ることが難しくなります。

 自在に動く舌や頬、そして食物をすりつぶせる奥歯がしっかりと機能することで、硬い食べ物も飲み込めるようになるのです。

 水分を飲み込むときも、口の中では合理的な動きをしています。水を含んだ口を開けて鏡を見てみると、舌がおわんのようにまるくへこみ、しっかりと水を保持しているのがわかります。舌がんの手術などで舌の一部を失うなど、病気の影響で舌が動きにくい場合は、飲み込みにくくなるのは当然です。

「刻み食」 は「咀嚼力の低下」 を補えるのか

 私が以前働いていた病院でも、「刻み食」やさらに細かい「極刻み食」という食事が提供されていました。しかし、咀嚼をしやすくするための「刻み食」で、かえってむせてしまう患者さんを目にすることも少なくありませんでした。当時一緒に働いていた管理栄養士の仲間たちと「刻み食をなくすにはどうしたらいいか」と何度も議論した記憶があります。

 例えば、きざんだ「かまぼこ」や「きゅうり」を想像してみてください。5ミリ角程度に細かく刻むと、ポロポロとしていて見るからに口の中でちらばりそうですね。奥歯が欠損していたり、舌や頬の動きが悪かったりする人には、むしろ口の中で「食塊」を作るのが大変困難です。

 「食塊」を作る機能が低下している人に、「刻み食」はかえって誤嚥のリスクを高める可能性があるのです。

 「食べることや飲み込むこと」に関する研究や教育を行っている「日本摂食嚥下リハビリテーション学会」では、「嚥下調整食分類2013」という「飲み込みやすい食事の分類」を公表しています。分類は5段階に分かれていますが、その中に「刻み食」という分類はありません。「咀嚼や飲み込むこと」に何らかの問題がある人の食事を作る際は、きざむことよりも以下の3点に注意する必要があると考えられます。

・やわらかさ
・まとまりやすさ(凝集性)
・歯や口の粘膜に張り付きにくさ(付着性)

 例えば、とんかつよりも豚の角煮の方がやわらかいですね。溶けるようなやわらかさの角煮であれば、歯茎でも簡単につぶせるため飲み込やすくなります。パラパラのチャーハンも「あんかけチャーハン」にすれば口の中でまとまりやすく、「凝集性」が高まります。「太巻き」の海苔は板海苔ではなく、サランラップで巻いたあとに刻み海苔をまぶすことで、ひらひらした海苔が口の中に張り付きにくくなります。以前、ご紹介した「おもちを食べる時にとろみのついたこしあんをまとわせる」という方法も、もちの「付着性」を低下させるテクニックのひとつです。
 
 調理環境によっては、「刻み食」を提供せざるを得ない施設やご家庭もあるでしょう。その時には、「料理をより柔らかくバラつかず、くっつきにくくする」を念頭に置いて調理してみてください。アイデアが浮かばない時には、是非、身近な管理栄養士に聞いてみてくださいね。(塩野崎淳子 在宅訪問管理栄養士)

参考資料

  • 口から食べる幸せをサポートする包括的スキル KTバランスチャートの活用と支援 第2版 P39~ 「咀嚼・送り込み」
  • 日本摂食嚥下リハビリテーション学会 嚥下調整食分類2013
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塩野崎顔2_100

塩野崎淳子(しおのざき・じゅんこ)

 「訪問栄養サポートセンター仙台(むらた日帰り外科手術WOCクリニック内)」在宅訪問管理栄養士

 1978年、大阪府生まれ。2001年、女子栄養大学栄養学部卒。栄養士・管理栄養士・介護支援専門員。長期療養型病院勤務を経て、2010年、訪問看護ステーションの介護支援専門員(ケアマネジャー)として在宅療養者の支援を行う。現在は在宅訪問管理栄養士として活動。

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