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リングドクター・富家孝の「死を想え」

コラム

70歳を過ぎて身近になった死

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やみくもに生きてきた若いとき

 医者になって早いもので47年。まさに「光陰矢の(ごと) し」で、私はこの3月で72歳になります。医師免許には定年制や更新制度がないので、生涯現役のまま、私は医者としていずれ死を迎えます。

 年をとるにつれて死が身近になったことを、つくづく感じます。今回から、「死」をテーマにした連載を始めさせていただきますが、医者だからといって死に関して特別な思いはありません。一般の方と同じです。やはり、死ぬということは怖いものですし、本当にそのときが来たら、はたしてどうなるか、自分でもまだわかりません。

 若いときは、ただやみくもに生きていました。江戸時代から代々続く医者の家系に生まれた私は、自然科学には興味がありませんでしたが、親から言われて、医者になりました。ただ、普通の医者と違ったのは、山っ気が多く、また、相撲やレスリングなどの格闘技が大好きだったことです。

 それで、まず山っ気を大いに発揮して、病院経営に乗り出しました。1980年代はじめのことで、景気が本当によかった時代です。それで、老人向け病院を3軒、歯科医院を2軒、クリニックを2軒、接骨院を1軒と、計8軒もの医療機関を次々にオープンさせたのです。しかし、過剰投資で経営に行き詰まり、あえなく倒産。多額の借金を抱えて、しばらくはにっちもさっちも行かない日々を送りました。

 それから、一念発起。病院経営失敗の経験を生かして医療コンサルタントとなり、医療ジャーナリストとしてメディアの仕事をするようになりました。さらに、大好きな格闘技に医者として参加し、プロレスのリングドクターをし、大学でも専任教員としてスポーツ医学などの講義をしていました。

 この間、本も書き続け、すでに65冊以上を出版しました。現在は医師紹介業も行っていますが、これほど多彩なことをしてきた医者はそういないと思います。

医者は死を知らない

 医者の仕事というのは、病気を治すことが第一義ですので、死についてあまり知らないのです。この間、死に関して真剣に考えたことはありませんでしたが、7年前、心臓に栄養を供給する冠動脈の血管が詰まり、心臓バイパス手術を受けてからは死を意識せざるをえなくなりました。

 その8年前に左胸に痛みを感じ、冠動脈を広げるため、ステントと呼ばれるチューブ状の金属を挿入する治療を受けていましたが、バイパス手術を受ける直前は胸の圧迫感を覚えただけでなく、背中に激しい痛みが走りました。「もしかしたら、これで死ぬかもしれない」と思ったものです。

 幸い、ステントを入れたときと同様、懇意にしていた心臓外科医の南淵明宏医師のもとで、開胸して動脈バイパス手術を受け、ことなきを得ました。2012年の暮れのことでした。このときは2週間入院して、正月を病院のベッドで過ごしました。

 突然、冠動脈が詰まり、手遅れになることも多いのです。医者に行っても、そのときに症状が治まっていると、心電図検査だけで帰されることがあります。その後、心筋梗塞を起こして助からなかったというケースがあります。私の場合はステント挿入から8年たっているということもあり、徹底検査をして、信頼できる医師のもとで、すぐに手術をしてもらえたので助かりました。

 そもそも心臓の異変に気づいたのは、医学生のとき習った心疾患の症状にあてはまったからです。このときほど、自身が医者でよかったと思ったことはありません。同時に、医師として頭でわかっていたつもりでも、実際に体験してみないと患者の気持ちは理解できないとわかりました。

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富家 孝(ふけ・たかし)
医師、ジャーナリスト。医師の紹介などを手がける「ラ・クイリマ」代表取締役。1947年、大阪府生まれ。東京慈恵会医大卒。新日本プロレス・リングドクター、医療コンサルタントを務める。著書は「『死に方』格差社会」など65冊以上。「医者に嫌われる医者」を自認し、患者目線で医療に関する問題をわかりやすく指摘し続けている。

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