エッセイスト 安藤和津さん
一病息災
[エッセイスト 安藤和津さん]介護うつ(3)母の死後 心は回復せず
10年余りの母の介護を経て2003年、「介護うつ」と診断された。抗うつ薬には抵抗があり、睡眠薬だけを服用。なんとか仕事と家事、介護を続けた。
それから3年、母は83歳で息を引き取った。夫は白木の棺に玉を抱いた昇り竜を一気に描き、手向けとして家族で見送った。58歳。40歳代後半からの介護に追われる日々は終わったが、心は回復しなかった。
「灰色のサングラスをしているみたい。身体は楽になったけど、感情が死んでいました」。抑うつ感は介護が終わってからも10年以上続く。睡眠薬なしでは眠れず、薬の量は次第に増えていった。
その間、家族の方は順風満帆だった。夫の映画は海外で受賞を重ね、映画監督の長女、女優の次女も仕事で注目を集める。2人とも幸せな結婚もした。それなのに心楽しまない。
夫の映画賞受賞は喜ばしいのだが、「私は夢を追う 獏 のフン拾い」と気持ちは沈む。義姉の結婚式でさえ感極まって号泣した感激家だったのに、娘の結婚式ですら気持ちは淡々としたままだった。
「お母さんは何を食べたいってきいても、自分で決められないね」と娘たちから言われた。料理好きだったのに、何を食べてもおいしいと感じないのだ。
「介護の時は、やみくもに介護に突進して疲労 困憊 でしたが、介護後は感情が本当に動かなくなりました」と振り返る。
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エッセイスト 安藤 和津 さん(70)