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心療内科医・梅谷薫の「病んでるオトナの読む薬」

医療・健康・介護のコラム

不眠・頭痛の52歳女性 大好きな父が認知症で次々トラブル…「施設に入れたのがつらくて」

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子どもとして必要な仕事とは

 その後、しばらくぶりに彼女が外来を訪れた。薬が切れたのと、近況報告のためだった。父親は、先日、自宅で転んで骨折し、近くの病院にしばらく入院したという。

 「食事にむせて肺炎を起こしかけるし、認知症がひどくなって、本当に大変でした。担当の先生も、やはり施設しかないと言うし。最後は、私が『後見人』ということになって、専門施設に入所させることになったんです」

 「本当に、大変でしたね。大好きなお父さんを、本人の意に反して施設に入れるのは、さぞつらかったでしょう」

 彼女の口から 嗚咽(おえつ) がもれた。

 「つらかったです。私がもっと力になっていれば、年老いたお父さんに、こんなイヤな思いをさせないですんだはずなのに……」

 「いや、そうじゃないんですよ。きっと」

 私はそう答えた。

 「あなたは、十分に頑張ったんです。娘としてできることはすべてやったと思う。今の家族を守るため、お父さんとは住めなかった。お父さんを守るため、自宅での生活を見守った。自分と家族を守りながら、毎日働いて、みんなのために、できることをやりきった。だから、お父さんもこれまで自由に生きられた。でも今は、お父さんを守るためにも、専門家の世話になることが必要なんです。お父さんが元気だったら、きっと納得したでしょう。あなたは、自分の役割をきちんと果たしたと。

 『施設に入れるなんて』と言って、誰もほめてくれない。むしろ本人からはうらまれる。でも、子どもとして必要な仕事をあなたは、きちんとやりとげたんです。私は、それこそが『親孝行』だと思いますよ。本当に、よく頑張りましたね」

 H子さんは、しばらくうつむいて黙りこんだ。

 「ありがとうございます。そう言っていただいて、父への罪悪感が、少し楽になりました。今度はまた、元気な顔で父と会えそうです」

 彼女はそう言って、深く頭を下げた。(梅谷薫 心療内科医)

 *本文中の事例は、プライバシーに配慮して改変しています。

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梅谷 薫(うめたに・かおる)

 内科・心療内科医
 1954年生まれ。東京大学医学部卒。90年から同大学で精神科・心療内科研修。都内の病院の診療部長、院長などを経て、現在は都内のクリニックに勤務。「やまいになる言葉~『原因不明病時代』を生き抜く」(講談社)、「小説で読む生老病死」(医学書院)など著書多数。テレビ出演も多い。

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