心療内科医・梅谷薫の「病んでるオトナの読む薬」
医療・健康・介護のコラム
不眠・頭痛の52歳女性 大好きな父が認知症で次々トラブル…「施設に入れたのがつらくて」
「最近、よく眠れなくて、頭痛がひどいんです」
と、H子さんは語り始めた。近くの内科で「自律神経失調症」の診断を受け、心療内科に紹介されてきたのだ。
年齢は52歳。症状は、睡眠障害と頭痛。食思不振や下痢などの症状もあるというが、血液検査では異常なし。エコーや内視鏡検査でも問題はなかった。
「何か悩みでもあるんですか?」
「そりゃあ、もう……」
と、 堰 を切ったように彼女は話し始めた。
パート先の上司がひどい人で、H子さんを目の敵にしていじわるをしてくる。夫は肺がんを患って、2度目の手術。働けない上に、治療費がかかるので、彼女がパートに出ないわけにはいかない。息子は、ようやく就職した会社をやめてしまい、現在は就職活動中。グチばかり聞かされてうんざり……。
「でも、一番困っているのは、父親のことなんです」
H子さんはため息をつき、しばらく黙り込んだ。

イラスト:西島秀慎
一人っ子で、父親のお気に入り
彼女の父親は82歳。隣町に一人で住んでいる。頑固で一徹。周りとのトラブルが絶えない人。一人っ子のH子さんは、そんな父親のお気に入りだった。
仕事人間の父親は、家にいる時間も短い。浮気がばれて、母親との仲は最悪だった。それでも、H子さんのことはかわいがってくれた。彼女も、いつもイライラしている母親の相手より、父親の自慢話につきあっている方が楽しかった。
父親が「認知症」ではないか?と思い始めたのは、母親が亡くなった10年前くらいからだった。
しょっちゅう「物がなくなる」と言い始め、隣人が盗んだと言って、大騒ぎを起こした。大家さんにどなり込んだり、火の不始末でボヤを出したりするようになった。医者にかかるのがイヤで、無理やりに連れて行っても、薬を飲まずに捨ててしまう。
「父のことで毎日のように、携帯に電話がかかってくるし、大家さんやご近所にも謝りに行かなきゃいけない。どれだけ注意しても『あいつらが悪い』の一点張り。もう、どうしていいかわからないんです」
H子さんは、涙ぐみながらそう語った。とりあえず、軽い睡眠薬と頭痛薬の服用は続けながら、少し状況を整理してみることにした。
「おれを病人扱いするのかっ!」
父親を何とかしないと、自分たちのことはともかく、周りの人たちに大きな迷惑がかかるのでは……と、H子さんは言う。専門の施設に入所するのが良さそうだが、本人には一向にその気がない。「私たちのためだと思って、しばらく施設で暮らしてみて」と懇願しても、「おれを病人扱いするのかっ!」と一喝するばかり。
「うちに引き取ろうかと思ったんですが、以前遊びに来たときも、夫には『この程度の病気に負けてどうする』とか言うし、息子にも『さっさと働かんか!』と言うばかり。これ以上お父さんにかかわるな、というのが、家族の総意なんです」
H子さんは再度、大きなため息をついた。
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