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心療内科医・梅谷薫の「病んでるオトナの読む薬」

医療・健康・介護のコラム

虐待されて育ち、ヒーロー出現を夢見た32歳女性 夫のDVからも母子で逃れ…「本当のヒーローは誰か?」

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 心療内科の外来を初めて訪れたとき、G代さんはひどく弱っているように見えた。年齢は32歳。気持ちがひどく落ち込んで気力がわかず、毎日疲れきっていて、悪夢ばかり見るという。うつ病の自己評価尺度CES-Dは60点中54点と極めて高く、「うつ病」の診断を下した。

 G代さんは、5歳の男の子と3歳の女の子を連れて家を出ていた。原因は夫の暴力だった。

 結婚当初は、軽く頬をたたくくらいだった。笑顔でたたくので、冗談だと思っていた。口論を重ねるうち、平手打ちから 拳固(げんこ) になっていった。そして、ついに足で蹴られて、壁まで吹き飛ばされるようになった。ガラス棚が壊れて、G代さんは額を割り、血まみれになって救急病院に運ばれた。

虐待されて育ち、ヒーロー出現を夢見た32歳女性 夫のDVからも母子で逃れ…「本当のヒーローは誰か?」

イラスト:西島秀慎

娘を蹴り、息子に椅子を振り下ろす夫

 男の子が産まれたとき、夫はとても喜んだ。でも、子どもが大声で泣き止まないとかんしゃくを起こした。「うるさいっ!」とどなっても効果がないと、泣き止むまで平手打ちを続けた。下の子が産まれても、暴力は続いた。いや、ますますエスカレートしていった。

 ある日、夫がイライラしているときに、子どもたちがクスクス笑い合っていた。

 「俺をバカにしてんのかっ!」

 大声とともに、夫は娘を足で蹴飛ばした。娘はテーブルに頭をぶつけて倒れこんだ。息子は妹を守ろうとして、必死に夫に立ち向かった。

 「どいつもこいつもっ!」

 夫は息子を殴りつけ、そばの椅子を取って、何度も振り下ろした。さらに、止めに入ったG代さんを殴り、蹴りあげて、そのままどこかに行ってしまった。

 息子は体の痛みにうめき、それでも、妹に「大丈夫かい?」と、やさしく声をかけていた。G代さんはその時、家を出る決心をしたのだった。

子どもの頃から「いつか現れて救ってくれる」と

 彼女は、小さい頃から、ヒーローものの番組が好きだった。テレビやDVDでよく見ていた。

 父親は大酒飲みで、しょっちゅう酔っ払っては、家のものを壊していた。気分屋で、時々、突然、機嫌が悪くなり、母親にどなったり、G代さんを殴ったりした。毎日、父親の暴力や暴言におびえながら、空想の中では、いつかヒーローが現れて自分と母親を救ってくれる日を夢見ていた。

 だから、就職を機に何とか家を出ることができ、やさしい彼と出会ったときは心がときめいた。「君を守ってあげたい」と言われたときは、「ようやく望んでいた人に会えたのだ」と喜んだ。

 でも、そうではなかった。彼もまた、父親と同じタイプだったのだ。

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梅谷 薫(うめたに・かおる)

 内科・心療内科医
 1954年生まれ。東京大学医学部卒。90年から同大学で精神科・心療内科研修。都内の病院の診療部長、院長などを経て、現在は都内のクリニックに勤務。「やまいになる言葉~『原因不明病時代』を生き抜く」(講談社)、「小説で読む生老病死」(医学書院)など著書多数。テレビ出演も多い。

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2件 のコメント

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なにこれ

めぐ

すごい良い話ですね。なんか元気でた。

すごい良い話ですね。なんか元気でた。

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かっこいい

俺もヒーロー好き

良いこと言うなさすがです。 そうか逃げたと思ったかとが立ち向かっているというのは、よい言葉です。

良いこと言うなさすがです。
そうか逃げたと思ったかとが立ち向かっているというのは、よい言葉です。

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