思春期の子どもを持つあなたに 関谷秀子
医療・健康・介護のコラム
第4部 強迫性障害(下)父と母の希薄な関係~娘に幼児返りの症状が
幼児返りした状態で、欲求を満足
A子さんの姿を見て、父親は「お前が仕事ばかりで子育てをちゃんとしてこなかったから、こんなことになったんだ」と妻への不満を口にしました。ほとんど言い合いをすることがなかった夫から、初めての強い言葉を受けたことで、A子さんが病気になった原因は自分のせいだと母は自分を責めました。それ以後、娘の繰り返される強迫症状に、根気強くつき合うようになったのはそのためです。
それから、家庭内の構図がガラリと変わりました。
母親はなんでも自分の言うことを聞いてくれるため、今度は「母と娘」の関係が非常に密接になったのです。しだいに、中学生になった娘が、自分の欲求が通らないと泣きわめく、幼児のような状態に戻ってしまったのです。
娘の強迫症状に、母親がただつき合っている限り、「きれい」「汚い」の話から先に進むことはできません。A子さんが強迫症状を理由に何かを命令し、母がそれに従うことを繰り返している限り、幼児の時代に戻った状態での欲求を満足させてしまうだけになります。
これはA子さんにとって、症状が出ていることで得をする状態になっているのです。親子の関係だけではなく、思春期の健康的で前向きな発達にも大きな障害となります。
両親の関係が希薄過ぎて、けんかも起きない
私は「A子さんの強迫症状につきあわないこと。腫れ物に触るような対応をせず、普通に接すること。中学生の娘にふさわしいやりとりに戻すこと」を伝えました。両親はそろって「そんなことをしたらもっと暴れるのではないか」と口にしました。もっともな不安かもしれません。
しかし、強迫症状につき合わないことで、A子さんの強迫症状の裏側にある本当の心配や不安、焦り、心細さなどを見つめる機会が得られると考えたのです。
さらに、両親が「夫婦として」、お互いに協力して生活していくことが必要であること、そしてA子さんが母親に暴力を振るいそうになった場合には、父親がそれを止め、母子間の共生関係に 楔 を打ち込むようにも伝えました。
どうやら父親は、幼い頃から母親の愛情に飢え、結婚しても自分の妻に対して不満を抱き続けてきたことで、A子さんは「娘」であるだけでなく、「母親」でもあり、そして「妻」の存在にもなっていたようです。
そんな父親の願望に対して、A子さんも無意識に応えてきてしまっていました。
この段階で、父親と娘の関係としては不自然なものになっていました。
思春期に入った女の子にとって、父親との不自然な密接さは、異性への不安を増大させてしまうことがあります。そんな不安が、「クラスの男の子の唾が汚い」という観念に置き換わり、それが強迫症状となって表れ、幼児返りを引き起こすことになってしまったのです。
一方の母親は、A子さんのわがままに一生懸命に付き合うことで、希薄だった母子関係に対する罪悪感を払拭しようとしました。それは同時に自分の夫を娘に取られてしまったという、嫉妬心も薄れさせることになりました。とはいえ、結果的に、幼児のような娘の要求に、すべて母親が応えている母子関係も、やはり不自然なものです。
結局、この家庭には、本来の親子が持っているはずの父性、母性が変質してしまっていたわけです。A子さんが発症した強迫症状は、それに対する不満であり、警告でもあったのです。
1 / 2
【関連記事】
背景にあるもの
通りかかったきじとらみーちゃん
ひとくちに強迫性障害と言っても、このA子さんのようにご両親になにか問題のようなものがある場合もあるんですね。 強迫症状の背景にあるものを読み解き...
ひとくちに強迫性障害と言っても、このA子さんのようにご両親になにか問題のようなものがある場合もあるんですね。
強迫症状の背景にあるものを読み解き、そして解決に向かう場合もあるのだなと、初めて知りました。
1年という時間はかかりましたが、A子さんの強迫症状が治まってゆき、無事に学校に復学できて本当に良かったと思いました。
つづきを読む
違反報告