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思春期の子どもを持つあなたに 関谷秀子

医療・健康・介護のコラム

第4部 強迫性障害(上)唾をとばしたクラスの男子がきっかけで不登校になった 中1女子

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 自分の意思に反して不安な考えが浮かんできて(強迫観念)、その考えを打ち消そうとして同じ行動を繰り返す(強迫行為)。これが強迫性障害(強迫神経症)の主な症状です。

 思春期の子どもに強迫症状が起こると、正しい発達の道筋を進めなくなってしまう危険があります。繰り返し浮かんでくる不安に、「対処しなければ」との強迫観念にとらわれてしまい、友達との交流や勉強が妨げられ、日常生活に支障をきたしてしまうのです。さらに、強迫症状の対処を巡って、「幼児返り」の状態に陥って、昔の母子関係に後戻りしてしまい、そこから抜け出せなくなってしまうこともあります。

 「いくら手を洗っても、まだ汚れている感じがする」「火の元が気になって、何度も確認する」――。なんらかの不安が生まれ、それを打ち消そうとして、同じ行動を繰り返してしまう。自分では不合理だとわかっていても、たびたび不安が浮かんでくることで、日常生活に支障が出てしまうこともある。

 原因ははっきりしていないが、神経系の機能異常や心理的・環境要因、遺伝的要因などの影響と考えられている。「強迫症状」は強迫性障害だけのものでなく、統合失調症や発達障害など他の疾患でも起こりうるため、その鑑別が必要になる。

ノートや教科書をウェットティッシュで拭き、手洗いに1時間も

第4部 強迫性障害(上)唾をとばしたクラスの男子がきっかけで不登校になった 中1女子

 都内の中学1年生A子さんは、ある時期を境に、極度の不潔恐怖症になりました。

 そもそものきっかけは、クラスで隣の席の男の子が鼻をほじったり、唾をとばしたりするのを見たことでした。帰宅のたびに、その男の子の唾がついているかもしれないと、ノートや教科書、鉛筆などをすべてウェットティッシュで拭き、1時間以上もかけて手を洗うようになりました。症状は悪化の一途をたどり、やがて、「クラスの友達にも、その男の子の唾がついているかもしれない」と言い出し、とうとう不登校に至りました。

 やがて不潔恐怖症は、自宅での生活にも及ぶようになりました。

 ドアノブやペットボトルの蓋は汚いからと母親に開閉をさせ、そのうち自分の足が汚いので触れられないと、靴下の着脱までを母親にやらせるようになりました。何かするたびに、いちいち「これ、汚くない?」と母親に確認し、「汚くないよ。大丈夫」との返事を求めるようになりました。

 身の回りの様々なことを母親に命令するのですが、やがて「返事の仕方が気に入らない」「やり方が指示通りではない」などと怒り出して、蹴ったり、たたいたり、暴れて壁に穴をあけたりといった暴力的な行動を起こすようになりました。

 母親は一生懸命にA子さんの言うとおりにしていましたが、悪化する状態に不安を募らせて、相談のために父親を伴って、クリニックを受診されたのです。

 A子さん本人は、強迫症状のために家から出られないため、来院できないとのことでした。

 いろいろ話を聞いているうちに、家の中にはピリピリした空気が漂い、両親が娘の機嫌を損ねないようにと腫れ物に触るような態度で接していることが伝わってきました。

 A子さんが来院しなかった本当の理由も、実は「精神科に相談に行ったことが本人にバレてしまうと暴れられる。だから両親だけで内緒で来た」ことだったようです。

 両親の話を聞いていて、強迫症状の裏側にあるA子さんの本当の不安や不満は「男の子の唾」や「母親の対応」ではなく、別のところにあると私は感じていました。

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せきや・ひでこ
精神科医、子どものこころ専門医。法政大学現代福祉学部教授。初台クリニック(東京・渋谷区)医師。前関東中央病院精神科部長。

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