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増えるロコモのがん患者…骨に転移 痛み・まひ
足腰の筋肉や骨が衰え、歩行などの日常動作が難しくなる「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」。がん患者は、手術や抗がん剤治療の影響、がんの骨への転移により、ロコモになりやすい。体力や生活の質の向上に、整形外科医の果たす役割は大きい。
治療の副作用
がんの治療は入院を伴うことが多い。手術はもちろん、抗がん剤や放射線による治療の後、副作用で体調がすぐれず、疲れやだるさが出やすくなる。
だが、その治療は足腰を弱らせる原因にもなる。ベッドで1日寝ているだけで全身の筋肉が2%減る、抗がん剤治療を2週間受けると筋力が30%低下する、といったデータがある。
抗がん剤の副作用である吐き気を抑えるステロイドや、前立腺がん、乳がんで行うホルモン療法が、骨粗しょう症を悪化させる。
がんが発生した臓器にとどまらず、骨に転移すると骨の性質が変化し、骨折しやすくなる。神経に近いため、強い痛みやまひ、しびれなどが出る。骨が溶け、血中のカルシウム濃度が高くなると、腎障害や意識障害なども表れる。
進行がんで骨転移が多いのは、乳がん、前立腺がんの65~75%、甲状腺がんの40~60%など。毎年約100万人が新たにがん患者となり、このうち推計10万~25万人が骨転移で治療が必要な患者とされる。
転移する骨の部位は、脊椎が全体の60~70%を占める。このほか、肩関節周辺の上腕骨、 肋 骨、骨盤といった体幹骨、股関節周辺の 大腿 骨など、日常的によく使う場所が多い。
整形外科医の参加
千葉県の男性(64)は2013年秋、背骨の痛みで受診したところ、肺と胸椎にがんが見つかった。骨転移だった。数か月の間に痛みやしびれが強まり、下半身はまひして歩行が難しくなった。
症状は徐々に悪化。不安を募らせた男性は、まひを和らげる治療を求め、14年1月、金沢大病院で胸椎のがんを切除し、人工椎体に置き換える手術を受けた。しびれが消え、リハビリの効果もあり、半年後、自力で歩けるまでに回復した。
男性は骨転移で最も進行したステージ4だが、経過観察を続けている。がん治療に整形外科医として関わる同大教授の土屋弘行さんは、「症状を緩和する手術は、患者の状態を見ながら判断するが、この男性のように体力が回復し、治療の選択肢が増えることもある」と話す。
がんの5年生存率が延びる中、リハビリなどのロコモ対策の重要性は増している。専門医の指導の下、栄養バランスの良い食事と、筋肉に適度な負荷をかける運動を組み合わせ、体力を落とさないようにすることが大切だ。
体が動けば、生活の質が上がり、精神的な苦痛も和らいで、治療効果が上がることも期待できる。
一方、課題もある。骨粗しょう症や変形性関節症などの運動器障害は、加齢が主な原因だ。中高年に多いがん患者の場合、痛みの原因をがんだと決めつけてしまうと、誤った治療が行われる恐れもある。
土屋さんは「ロコモのがん患者は増えており、がん治療に整形外科医の参加が望まれる」と話している。
(山田聡)
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