在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活
コラム
骨の育成にはカルシウムだけでは不十分 「ビタミンD」も取りましょう
先日、仙台市内のある町内会から「健康講話」の講師を依頼されました。お題は「高齢期に不足しやすいビタミンとミネラル」。講演の前に、高齢期に不足しやすいビタミンやミネラルについておさらいしてみました。
特に不足しやすいとされているのは、カルシウムやビタミンDなどの「骨をつくるために必要な栄養素」です。高齢期になると骨そしょう症のリスクが高まることは知られていますが、私の身近でも骨折が要介護状態の原因になったケースは少なくありません。
ビタミンDの供給源とその働き
人間の皮膚にはプロビタミンD3という物質が存在しています。皮膚が日光の紫外線にあたることによってプロビタミンD3はプレビタミンD3となり、さらに体温によってビタミンD3が作られます。ビタミンDは、日光にあたることによって皮膚で生成されるビタミンなのです。
食品から摂取できるビタミンDもあります。キノコ類に含まれるビタミンD2や、魚に含まれるビタミンD3です。
ビタミンDの欠乏は「くる病」(小児)や「骨軟化症」(成人)を招く可能性があります。これらの病気になると、骨の形成が不十分なために、骨が曲がるなど成長不良を引き起こすこともあります。
ビタミンDは、腸でカルシウムの吸収を促進し、腎臓ではカルシウムの再吸収に関わっています。ビタミンDが不足すると、これらの働きが低下し、低カルシウム血症を引き起こします。カルシウムを十分摂取していたとしても、吸収されなければ腸の中を通過して身体の外へ出てしまいますね。そうすると、血液中のカルシウムの濃度を保つために、骨からカルシウムが血液中に流れ出てしまいます。
乳幼児のビタミンD欠乏症「くる病」
1960年代に、日本で初めて「乳児死亡率ゼロ」を達成した、岩手県和賀郡沢内村(現・西和賀町)では、かつて冬季は深い雪に閉ざされているために、赤ちゃんを屋外に連れ出すことはほとんどなく、多くの乳児がビタミンD欠乏のために「くる病」を患っていたといいます。
2年前の夏、私は旧沢内村を訪れ、当時の村長であった 深澤晟雄 さん、そして村の歴史を展示した深澤晟雄資料館で「乳児死亡率ゼロ」の歴史を知りました。村の保健婦らが、当時はまだ珍しかったバイクに乗り、赤ちゃんの健康を守るため村中を指導して回ったそうです。その様子を撮影した1970年ごろのモノクロ写真には、赤ちゃんを抱いた女性に保健婦さんが優しく語りかけている姿が映されていました。「赤ちゃんはすくすく育っていますか?」という声掛けが写真から聞こえてくるようでした。村をあげての赤ちゃんの健康を守る取り組みに加え、この地道な訪問活動により、乳児のくる病の発症は減少していきました。
当時は主食の米だけでなく、肉や魚などの十分な食料がない時代だったので、食事からのビタミンDの供給が不足したことも「くる病」の発症に影響を与えていたと考えられます。
地域によるビタミンD産生時間の違い
「日本人の食事摂取基準」には興味深いデータが示されています。顔と両手を露出させた状態で、1日に必要とされる5.5マイクログラムのビタミンD3を産生するために必要な時間はどの程度なのかを、札幌、つくば、那覇の3地点で調べたものです。
表を見ると、三つの地域で日光照射時間に大きな差があることがわかります。
十分なビタミンDを産生するためには、札幌ではお昼ぐらいに1時間以上もの日照が必要です。空が雪雲に覆われる日も多いでしょうから、せめて天気のいい日は窓側で「ひなたぼっこ」をしてみるのもいいかもしれません。また、紫外線対策でこどもにも「UVカットクリーム」を塗っている方がいますが、成長期のこどもにとって、ある程度の紫外線は必要なのです。真夏の強い紫外線に当たる時にはUVカットクリームが必要かもしれませんが、地域と季節によってはほどほどにした方がよさそうですね。
食事でおいしくビタミンDを
私は日ごろ室内にいることの方が多く、特に冬の仙台は寒いので、なるべく肌を露出しないようにしています。美容のために冬でもUVカットクリームを顔に塗っています。せっかく屋外に出ても、紫外線をカットしているのです。サプリメントでビタミンDを補う方法もありますが、暮らしの中でおいしくビタミンDの摂取量を増やす方が自分には合っていると思います。
ビタミンDは、マグロ、サケ、シラス、サンマなどの魚類のほか、キクラゲ、エリンギ、マイタケなどのキノコ類に多く含まれています。特にサケには切り身1切れ(80グラム)に25.6マイクログラムも含まれています。ビタミンDは油に溶ける性質があるので、ソテーやフライなどにするのがおすすめです。料理が面倒だという方は、サンマやサバの缶詰にもビタミンDが含まれていますので、活用してみてはいかがでしょうか。(在宅訪問管理栄養士 塩野崎淳子)
参考文献
日本人の食事摂取基準2015年版 第一出版
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