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初期流産の手術「手動吸引法」…子宮の傷や後遺症少なく

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初期流産の手術「手動吸引法」…子宮の傷や後遺症少なく

 妊娠初期に流産した際、子宮から組織を取り出す手術で、海外で普及している「手動吸引法」という方法が、国内で広がってきた。従来の方法より、子宮を大きく傷つけたり、後遺症で妊娠しにくくなったりする恐れが小さく、患者に比較的優しい手術法だ。

(中島久美子)

 この方法は柔らかいプラスチック製のチューブ(太さ5~12ミリ)を ちつ から子宮内部に入れ、組織を吸い出す。対象となるのは12週未満の流産だ。人工妊娠中絶の場合も同様だ。

 妊娠中期になると、胎児や胎盤が発達するため適さない。

 2016年、チューブとつなぐ手動式の吸引器とセットで、使い捨てにできる器具の輸入・販売が始まり、利用が広まった。

 以前から電動ポンプを使う吸引法はあったが、大きな作動音で麻酔の効果が薄れたり、都度、消毒が必要だったりして、使い勝手が悪かった。

時代遅れ「掻爬法」

 国内では従来、小さなスプーンのような金属製の器具で、組織を剥がして き出す「 掻爬そうは 法」が多かった。「日本の医師は器用で丁寧な手術を行う。慣れた掻爬法で問題はない」との考えが、産婦人科医の間では根強かった。

 だが、厚生労働省研究班が13年、妊娠初期の中絶手術約10万件を検証したところ、掻爬法より吸引法の方が、安全性が高いことが明らかになった。世界保健機関(WHO)も「掻爬法は時代遅れ」として、吸引法を推奨してきた。

 掻爬法では、ほかの深刻な後遺症も指摘される。組織を剥がし取った影響で、受精卵が着床する子宮内膜が薄くなり、妊娠しにくくなる懸念がある。

 札幌市の産婦人科医 東口あずまぐち 篤司さんによると、不妊患者310人を調べた結果、掻爬法を受けた回数が多い人ほど、子宮内膜が薄かった。東口さんは「次の妊娠を望む女性は、吸引法が望ましい」と話す。

術後の痛みも軽く

 吸引法を経験した患者も恩恵を感じる。原因不明の流産を繰り返した中部地方の主婦(42)は16年、手動吸引法で手術を受けて驚いた。掻爬法では麻酔から覚めた後、下腹部の痛みが続いたが、「吸引による痛みは、ほぼなかった」という。

 背中を押したのは、主治医の名古屋市立大産婦人科教授・尾崎康彦さんだった。尾崎さんから「次の妊娠を考えると、吸引法の方が安心」と説明された。

 主婦は「流産のたび、子宮内膜への影響が心配だったので、心が少し軽くなった」と振り返る。

 流産や死産を繰り返す不育症患者を対象に同大病院が行った調査では、手動吸引法は、患者の出血や痛みが少なく、手術後の妊娠意欲も高いことが裏付けられた。

 手動吸引法の普及に向け、積極的に取り組んできた尾崎さんは「体だけでなく心にも優しい方法を、医師も患者も、もっと知ってほしい」と話している。

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