本田秀夫「子どものココロ」
医療・健康・介護のコラム
物をなくす、努力が続かない…は注意欠如・多動症(ADHD)かも 厳しく叱ると「無気力」「反抗」に
小学2年生男子のBくんは、じっとしていることがとても苦手です。授業中も姿勢が定まらず、椅子を前後に揺らしたりキョロキョロと周りを見たりして落ち着きません。ときどき席から立ちあがり、教室の後ろに歩き出そうとして先生に注意されます。先生が説明しているときも、何かを思いつくとすぐに口を挟みます。工作の時間などに、説明を最後まで聞かずに作業を始めてしまうため、やり方を間違えてしまうことが頻繁にあります。
中学1年生女子のCさんは、性格は明るくて友だちも多いのですが,忘れ物が多いのが悩みの種です。宿題や提出物を忘れてしまうことがしばしばあります。小学生のときは担任の先生が保護者と連絡をとってくれたのですが、中学校に入ると教科ごとに担当の先生が違うため、自分で管理しなければならなくなりました。すると、忘れ物がとても多くなったのです。忘れないようにメモを書くようにと助言されたのですが、メモもなくしてしまいます。何かに集中して取り組むことも苦手で、勉強や作業をしていても数分で気が散ってしまい、最後までやりとげることがなかなかできません。
2年生になると多くの子どもは落ち着くが…
BくんやCさんのような特徴を示す子どもは、けっして珍しくないと感じる読者もいるかもしれません。たしかに大人に比べて子どもは落ち着きがなく、気が散りやすいものです。でも、小学校に入学して間もない時期には落ち着きがなくても、2年生になると多くの子どもは、ある程度落ち着いて授業に集中できるようになります。中学生ともなると、忘れ物をせずにすむ方法を自分なりに身につけ、勉強や作業にもある程度は集中できるようになっています。
そのような中で、落ち着きのない状態や物事に集中できない状態が、他の子どもたちより長く続く子どもが一部に存在します。これらの状態は、「注意欠如・多動症(ADHD)」の可能性があります。
ADHDは神経発達症の一種で、「多動性・衝動性」と「不注意」のどちらか、あるいは両方の特徴が、遅くとも12歳までに気づかれるようになり、そのために家庭生活や学校生活の中で、さまざまな支障をきたすときに診断されます。
「不注意」が特徴の場合は気づくのが遅れがち
多動性とは、「手足をそわそわ、もじもじさせる」「着席すべき場面で離席しやすい」「不適切に走り回る」「静かに遊べない」「じっとしていない」「しゃべり過ぎる」などを指します。衝動性とは、「質問が終わる前に答える」「順番を待つのが困難」「よけいな口出しをして邪魔する」などを指します。不注意とは、「不注意な間違いが多い」「注意の持続が困難」「話を聞いていない」「完遂できない」「順序立てることが困難」「努力を続けられない」「物をよくなくす」「気が散りやすい」「約束などを忘れやすい」などを指します。
Bくんのように多動性・衝動性が目立つタイプと、Cさんのように不注意が目立つタイプ、そして多動性・衝動性,不注意のすべてが目立つタイプに大別されます。多動性・衝動性が目立つ場合、幼児期から集団生活の中で問題となることが多いため、遅くとも小学校中学年までには診断され、対応策がとられることが多くなります。一方、不注意の特徴が中心で多動性・衝動性が目立たない場合、ADHDの可能性に気づかれることが遅くなる傾向があります。
虐待など不適切な養育環境で育った子どもや、何か悩み事がある子どもの中にも、やるべきことが手につかず、集中できなくなるケースがあり、ADHDと区別が難しいことがあります。したがってADHDの診断では、養育環境の問題の有無や生活上の悩み事の有無についても十分に考慮した上で、慎重に行う必要があります。
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