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がんを語る

医療・健康・介護のコラム

乳がん(下)仕事はやめない、家事・子育ては人に頼る…「一人じゃないよ」と伝えたい

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抗がん剤の副作用 子育てしながら、何度も救急外来に

――そうですね。こういう課題に対しても、がんを経験しながらも働いている、頑張っている姿を見せることで理解を広めることも大事ですね。堀内さんの場合、小さいお子さんも抱えての治療で大変でしたね。

堀内 私は抗がん剤の副作用で白血球の数値がものすごく落ちて、なかなか戻らなかったんです。クリスマスのときに4日間入院して、次の回からちょっと抗がん剤の量を減らしたのですけれども、とにかく白血球が戻らなくて、熱が出る、おたふく風邪になる、インフルエンザになる。毎週末のように救急外来に連絡すると、抗生物質も解熱剤ももらっているから「それを飲んで家にいてください」と言われるんですが、不安でたまらず行ってしまうということを繰り返していました。

 子どもは小さいし、買い物も行けない。本当に頭の中が1日を過ごすことで精いっぱいで、「抗がん剤」と聞くだけで震えるような時期がありました。

抗がん剤治療の副作用と発現時期
投与日アレルギー反応、吐き気・嘔吐おうと、血管痛、発熱、血圧低下
2~7日疲れやすい、だるい、食欲不振、吐き気・嘔吐、下痢
7~14日口内炎、下痢、食欲不振、胃もたれ、骨髄機能の抑制(白血球減少・血小板減少)
14~28日脱毛、皮膚の角化やしみ、手足のしびれ、膀胱ぼうこう炎、骨髄機能の抑制(貧血)
(「国立がん研究センターがん情報サービス」のサイトより)

やっとの思いでスーパーへ 知人が「元気じゃん」

――助けてくれる人はいませんでしたか。

堀内 「きょうは夕飯を作って持っていってあげるから何も心配しなくていいよ」と言ってくれた友人が一人、「買い物に行くついでに必要なものを買ってきてあげる」という友人が一人いました。その2人に頼る以外は、本当に自分でご飯を作らなきゃいけないから、絶対買い物に行こうと思うんだけれども起きられなくて、気持ち悪くて、だるくて、やっとの思いでスーパーに行ったら、知り合いから「何だ、元気じゃん。心配したよ」と言われて、返す言葉もなく、本当に誰にも通じないんだなと思いました。

――孤独ですね。お子さんの世話はどのように?

堀内 主人とか、近くに住む母も助けてくれました。今、当時の自分に会えれば「誰かに頼めばいいんだよ。とりあえず冷凍食品やカップラーメンでもいいんだよ」と言いたいのですが、当時はちゃんと作らなきゃいけないと思い込んでいました。

 人に頼れたのは、本当に最後の最後。保育園の同じクラスの友達の保護者全員にメールして、金曜日のお迎えをお願いしてそのままお泊まりさせてもらい、土曜日に保育園に連れて行ってもらうというのを2回しました。もっといろんな方に頼ればよかったです。

――責任感が強過ぎたんですね。

堀内 つらいときはお弁当をとれば良かったんでしょうけれど、そのときは、こんなものを食べたから、がんになったのかもしれないとか、そんなことも思っちゃって。この冷凍食品がだめ、このハンバーガーがだめ、みたいに思ってしまいました。

星野 私も玄米を使った食事療法に走りそうになりました。退院後、「これはいいよ」とサプリメントなどを薦められたり、ありませんでしたか?

――ちょっと怪しげなものも含めてね。

先輩患者に「大変だったね」と声かけられて号泣

星野(写真) 抗がん剤の最後の点滴のとき、ふっと壁を見たら、あけぼの会のポスターが貼ってあったんですよ。「乳がんの体験者の相談ルームをやっています。体験者とお話をしませんか」と。7~8か月も通っていて全然目に入らなかったんですが、ようやく余裕が少し生まれたときに「そうだ、体験者がいるじゃないか」と気づいたんです

――そこで体験者と知り合って今の活動につながる?

星野 最初は恐る恐る。同病相哀れむようなところで、何か暗いんじゃないかなんて思っていました。でも、病院に来るボランティアは「あけぼのボランティア」というピンクのエプロンをしていてニコニコ。ふっくらしたおばちゃんが3人位いて、「いらっしゃい」なんて言うので、「何? 何? この人たち」と思いました。

 お一人とは今でもお付き合いがあるんですが、「若いのに大変だったね」と声をかけてくれて、そこでわっと号泣というか、ポンとふたが外れたんです。「いいんだよ。いっぱい泣きな。頑張った、頑張った」なんて言われて、「頑張りました」みたいなことになり、少し自分が解放できました。

堀内 ずっと、一人で闘い続けていたんですからね。

星野 「今どんなことをしたい? 星野さん」なんて聞かれて、「口内炎がいっぱいできて苦しかったんです。私、唐揚げと生ビールが大好きなのですが、ずっと封印しているんです」なんて言ったら、「いいじゃん、いいじゃん、その目標。口内炎が治ったら唐揚げとビールやっちゃいな」なんて言われたから、詰まっていたものがストンと落ちて、その日は楽になりました。それはすごく覚えています。

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がんを語る3-thum

がんを語る
男性の3人に2人、女性の2人に1人が、がんになる時代です。このコーナーでは、がん種別に患者や経験者を招き、病との向き合い方を話し合います。
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1件 のコメント

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医師と患者の理解と感情のギャップと運用

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

(前編もふまえて) 前立腺癌検診の功罪の記事も出ていますが、保険診療の内外で様々な問題や知見の共有不足があります。 内視鏡だけでなく、CTもMR...

(前編もふまえて)
前立腺癌検診の功罪の記事も出ていますが、保険診療の内外で様々な問題や知見の共有不足があります。
内視鏡だけでなく、CTもMRIも超音波も進化したのに、いまだに標準のがん検診は旧式のままです。

診断や治療の急速な変化や医療内外のITによる情報拡散に、医師個人のみならず医療社会がまだついていけてないからです。
本文にもあるように、所詮医師はがん患者ではなく、スキルとして共感態度は示せても、心から寄り添える人は多くありません。
また、非人間的人格の内包で非人間的な一部の仕事が遂行できる矛盾の苦しみがあります。
そのことを患者や患者会側が理解して健常者や役所も巻き込んで運用のコツの共有や逆支援なんかを考えていただければ社会は変わるのかもしれません。

普通の医師は高度な知識や技術を専門分野の多岐にわたって更新し続けることは困難で、それが医療の細分化とチーム制に繋がっています。
一方で、患者は治療の全身的な影響について出来るだけ個人や小グループにサポートしてもらいたいわけで、現実と認知のギャップを埋めていくにあたっての矛盾や不十分もあります。
不眠だから睡眠薬を出すだけでなく、不眠の原因となる心の悩みや病気の症状に薬剤副作用まで寄り添ってほしい。
しかし、それは高コストや医療環境の変化への支援が必要になるのは当たり前。
それが医療費抑制の問題なんかの社会全体の問題との交錯するポイントです。

「医療制度の矛盾や医師の働き方改革なんか患者さんは関係ありません。」
といわれれば、
「患者さんのための標準医療外の仕事は医師には関係ありません」
になってしまうでしょう。

金子みすゞのこだまみたいですが、お互いに歩み寄るか、時代の変化を待つか、どうしたいのか?
あるいは地域ごとの取り組み自体が、今後の市町村の在り方や人口の増減に影響を与えるのかもしれません。

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