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Dr.イワケンの「感染症のリアル」

コラム

やっぱり怖い高齢者の肺炎 予防は何といってもワクチン

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冬に多い肺炎 抵抗力が弱った高齢者の死因上位

やっぱり怖い高齢者の肺炎 予防は何といってもワクチン

 冬になると、高齢者の病気が目立ちます。心臓の病気や脳卒中なども多いですが、この時期、特に多くなるのが肺炎です。

 高齢者の死因の中でも上位に位置する肺炎。抗生物質の開発で、感染症は治せる病気だと考えられがちです。が、特に抵抗力の弱った高齢者では、21世紀の現在でも命取りになることは多いのです。

 肺炎の原因で最も多いのが、肺炎球菌という細菌です。ま、名前からして肺炎の原因って感じですよね。肺炎だけではなく、髄膜炎(頭の感染症)や中耳炎など様々な感染症の原因にもなります。でも、高齢者の場合はやはり肺炎のインパクトが大きいのです。

 肺炎球菌に効果のある抗生物質はいろいろあります。一番、経験値が高く、安定した効果が期待できるのはペニシリンという古い抗生物質です。一時、肺炎球菌に薬剤耐性菌が増えて、肺炎球菌には効果がなくなった、と思われた時期もありましたが、近年の分析だと日本で見つかる肺炎球菌のほとんどは、実はペニシリンで治療できることが分かっています。

「ペニシリンより新しい抗生物質の方が効果高い」は間違い

 なお、よく誤解されているのですが、ペニシリンより新しい抗生物質のほうが肺炎球菌感染症に効果が高いと勘違いされています。

 例えば、メロペネムという名前の抗生物質はいろんな菌に効果があるので、肺炎球菌にも効果があるだろう、古いペニシリンよりもずっとよいだろう、と思われがちです。

 でも、実は日本で見つかる肺炎球菌のなかにはメロペネム耐性菌がすでに見つかっているのです(1)。メロペネムじゃなくてもよい、ではなく、メロペネムではだめ、なのです。これは、多くの医者も誤解している勘違いですし、感染症の専門家ですらときどき間違えています。

(1)Doi A, Iwata K, Takegawa H, Miki K, Sono Y, Nishioka H, et al. Community-acquired pneumonia caused by carbapenem-resistant Streptococcus pneumoniae: re-examining its prevention and treatment. Int J Gen Med. 2014 May 21;7:253-7.

特定の薬をヨイショする医者 それを真に受ける不勉強な医者

 医者の中には製薬会社からたくさんの講演料をもらい、太鼓持ちのように特定の薬をヨイショするけしからん医者がいます(残念ながら)。そして、そのような製薬会社主催の「ヨイショ」な講演会の内容を真に受けて、ちゃんと教科書などで勉強していない不勉強な医者も少なからずいます(残念ながら)。肺炎球菌による肺炎の治療にはメロペネムなどの広域抗菌薬は推奨できないのですが、こういう知識を持たない医者は残念ながら多いのです。

  ま、最近ではボランティアで医師への製薬会社からの資金提供が情報開示されるようになりました。

 もちろん、医者も製薬会社も医療というセクターで患者のために尽くしている一種の同業者です。だから、互いの協力は必要ですし、一緒に仕事をすることも決して悪いことではありません。しかし、かといってあまりに多額の金銭授受があれば、そこに判断のゆがみ、バイアスが生じるのもまた事実です。ですから、こういう情報開示はとてもよいことだとぼくは思います。

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岩田健太郎(いわた・けんたろう)

神戸大学教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。内科、感染症、漢方など国内外の専門医資格を持つ。ロンドン大学修士(感染症学)、博士(医学)。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院(千葉県)を経て、2008年から現職。一般向け著書に「医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法」(中外医学社)「感染症医が教える性の話」(ちくまプリマー新書)「ワクチンは怖くない」(光文社)「99.9%が誤用の抗生物質」(光文社新書)「食べ物のことはからだに訊け!」(ちくま新書)など。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパートでもある。

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1件 のコメント

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種々の肺炎と起炎菌の戦術的理解と対策

寺田次郎 放射線科サッカー部スペイン代表

僕も3冊くらいしか感染症の教科書は読んでいませんので、使う薬剤数を絞って手にあまる症例は、検査で診断を絞って領域専門医や感染症専門医にパスできれ...

僕も3冊くらいしか感染症の教科書は読んでいませんので、使う薬剤数を絞って手にあまる症例は、検査で診断を絞って領域専門医や感染症専門医にパスできればいいと考えています。
マイナーな特定臓器への移行性とか細かい統計の数字とか覚えるより、画像診断を真面目にやる方が僕には適性があります。
なんでもできる自信満々なお医者さんを求める患者さんも多いですが、そんな医師は幻想だと知るのも患者リテラシーですね。

サッカーではゴールを守る、ボールを奪うという2つの守備を状況に応じて、個人と組織でやります。
これは感染症から身を守る時にも使える判断です。
ワクチンの原理とはコントロールされた感染です。
健康な時にわざと感染して、身体の免疫組織に菌への耐性を持たせる。
感染症のファクターとして、保菌者の抵抗力も重要だからです。
サッカーでも、相手にわざとボールを持たせて、攻撃パターンを分析してから、仕掛けたりしますが同じです。

我々は菌やウイルスといった攻撃者から様々な臓器を守る守備をしないといけませんので、相手や自分の身体の構造や性質を知らないといけません。
守るべきゴールは肺だけでなく、肺炎も市中肺炎だけではありません。
抗生剤や抗ウイルス剤、ワクチンも万能ではないし、欠点や合併症があることも確かです。
その運用に関しては、また、こちらで触れていただきたいところです。

そして、本文にもある広域スペクトラム抗生剤の乱用の問題ですね。
風邪に抗生剤不使用の枠組みと同じく、適正使用に向けたワークフローの見直しも今後検討されるべきと思います。
どんな敵でも止めるGKやCBのようですが、頼り切ると全体のバランスが崩れますし、それ以上の攻撃者(耐性菌)が出てきたときの打つ手が無くなります。
そして、医師も患者も、そもそもそれが肺炎かどうかを、どの種の肺炎を考えなくなってしまい誤診から後手に回ります。

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