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在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活

医療・健康・介護のコラム

認知機能の改善も? 極低糖質の食事療法「てんかん食」

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認知機能の改善にも効きそうな「てんかん食」だけど

訪問の合間に高台でクルマをとめてパチリ。空気が澄んだ冬の仙台では、こんな神々しい風景にも出会えます

 「てんかん食」をご存じですか。「ケトン食」とも呼ばれており、平成28年度の診療報酬改定で新たに「栄養食事指導」の対象となった食事療法です。(1)

 てんかんは、脳の神経細胞で異常な電気活動が起こることで、意識の消失やけいれんなどを繰り返すため、タイプや症状によっては、日常生活に制限がかかってしまう場合もある病気です。最初のケトン食は1921年に発表されて以来、さまざまな研究が行われ、近年では薬によるコントロールが難しい、難治性のてんかん患者の発作を軽減することが明らかになっています。歴史のある食事療法ですが、医師や管理栄養士の医学管理のもとで行う必要があるため、日本ではあまり普及していません。

あえて栄養バランスを崩す食事療法

 「食事療法」というと、「野菜が多くて健康的な食事」をイメージしますね。

 「糖尿病食」や「脂質異常症(高脂血症)食」は、そんなイメージどおりの食事であり、「健康食」と言い換えても良いでしょう。しかし、「てんかん食」では、エネルギー源となる栄養素を偏らせ「あえて栄養バランスを崩して摂取する」ことが特徴です。これは「腎臓病の食事療法」の考え方と似ています。腎臓病の患者さんは、たんぱく質を取りすぎないようにしながら、しっかりとエネルギーを確保するために糖質や脂質を増やします。健康な人がこれらの食事を長期間摂取すると、体に悪影響を及ぼすこともあります。例えば、夫のために腎臓病食を作って同じものを食べていた妻が、たんぱく質不足で低栄養状態になったケースがありました。食事療法が必要な方と一緒に住んでいる場合は、家族みんなが同じ食事内容で良いのかどうかを、管理栄養士に確認してみてください。

 さて、「てんかん食」の大きな特徴は、高脂質・低糖質です。低糖質の食事を続けていると、体内の糖質が不足します。そうすると、肝臓で脂肪が分解されて「ケトン体」が生成されます。ケトン体は、脳をはじめ体のエネルギー源として利用されます。体内のケトン体が増えることで、てんかん発作が起こりにくくなる仕組みについてはまだ不明なことが多く、現在も研究が進められているそうですが、発作だけでなく認知機能も改善した症例も報告されています。(2)

「てんかん食」の具体的な献立とは

 てんかん食には「ケトン食」「修正アトキンス食」「低グリセミックインデックス食」「中鎖脂肪酸食」などがあります。

 「ケトン食」は、「脂質:糖質+たんぱく質」の比を3対1から4対1に調整したものです。「修正アトキンス食」は1日の糖質の摂取量を10から15グラム程度に抑えるもので、ケトン食よりも比較的実践しやすいと言われています。「低グリセミックインデックス食」は、血糖値の上昇が穏やかな食品を選んで食事をする方法で、以前「低インスリンダイエット」として話題になりました。「中鎖脂肪酸食」は、体内で燃焼されやすい中鎖脂肪酸(MCT)を活用し、脂質の摂取量を増やして必要なエネルギーを確保する食事です。

 ケトン食の具体的な献立としては、肉や魚料理を2~3品に、糖質の少ない野菜(青菜やトマトなど)にマヨネーズなど脂肪の多い調味料を添えます。豆腐や卵など糖質の少ない食品も利用できます。基本的にイモ類やご飯は控え、パンや麺類は糖質ゼロものを利用します。食事をおいしく楽しみながら、てんかん食を継続するにはかなり工夫が必要です。

 てんかんの治療において、食事療法はあくまで補完的なものであり、薬物療法と併用して、患者にとって、よりよい方法を模索する必要があります。薬を飲みたくないからと「てんかん食」の食事療法だけに頼ることは危険です。主治医や管理栄養士とよく相談してから始めるようにしてください。

「記憶機能改善」への期待もあるけれど…

 ある研究では、軽度の認知障害をもつ23人の高齢者を、「高炭水化物食」「極低炭水化物食」を摂取する二つのグループに分けて、その後の言語記憶能力を評価したところ、極低炭水化物食で血液中のケトン体濃度が高くなっている人ほど、記憶能力が改善していたことがわかりました。(3)

 医学的な証明はこれからかもしれませんが、認知症などで認知機能の低下がある方にとって、期待の食事療法かもしれません。一方で、この食事は1日のエネルギー量のうち、糖質から取れるのは5~10%とかなり低くなってしまいます。一日1600キロ・カロリーの食事が必要な方の場合、3食合わせて、ごはんを100グラム程度しか食べられません。ごはん茶わん3分の2程度の量です。1食あたり2~3口しか食べられないなんて、なんだかひもじい気持ちになりそうです。科学的に有効性が認められたとしても、管理栄養士として食生活で提案できるかどうかというと、なかなか難しいものです。(在宅訪問管理栄養士 塩野崎淳子)

(1)厚生労働省ホームページより
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/02.pdf

(2)「栄養学レビュー」2018 autumn No.102 p14~「神経疾患における認知障害の予防と治療のための食事の可能性」女子栄養大学出版部

(3)Krikorian R, Shidler MD, Dangelo K, et al. Dietary ketosis enhances memory in mild cognitive impairment. Neurobiol Aging.2012;33:425.

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塩野崎顔2_100

塩野崎淳子(しおのざき・じゅんこ)

 「訪問栄養サポートセンター仙台(むらた日帰り外科手術WOCクリニック内)」在宅訪問管理栄養士

 1978年、大阪府生まれ。2001年、女子栄養大学栄養学部卒。栄養士・管理栄養士・介護支援専門員。長期療養型病院勤務を経て、2010年、訪問看護ステーションの介護支援専門員(ケアマネジャー)として在宅療養者の支援を行う。現在は在宅訪問管理栄養士として活動。

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