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思春期の子どもを持つあなたに 関谷秀子

医療・健康・介護のコラム

第3部 摂食障害(上) 中2女子、親から受け継いだ「価値観の書き換え」が進まない

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「男の子やアイドルなんて、ばかばかしくて・・・・・・」

 治療のためには、A子さんについてもっと詳しく知る必要があります。まず、A子さんに自分自身についてじっくり話してもらうことにしました。

 しばらくは、自分自身が悩んでいる体重やカロリーの話が続きましたが、次第に話題は母親と自分の関係に移っていきました。

 しつけに厳しい母親は、日常生活全般にわたって細かい「家のルール」を決めています。A子さんは、常にそれに従って生活しているようでした。

 例えば、A子さんの学校の校則では髪の長さは自由です。にもかかわらず「家のルール」では肩に髪の毛がついてはいけないことになっています。下校途中、友達が本屋さんや文房具屋さんに立ち寄っても、母親から禁止されているため、自分だけはお店に入らずに、前で待っているそうです。朝は6時起床、夜は22時就寝で休日も同じです。ニュース以外のテレビ番組は禁止。

 クラブ活動、学習塾通いに加え、ピアノや日本舞踊の稽古もあり、両立は本当に大変そうでした。それでも、A子さんは疑問をもつ様子もなく、「母親の言うとおりにしないと。親の言うことは正しい」ときっぱり。

 学校の話になると、「忙しくて、みんなみたいに遊びに出かける時間はありません。いずれにしても、他の子とは話が合わない。男の子がどうだとか,アイドルの誰々が格好いいとか、お化粧がどうだとか・・・・・・、ばかばかしくて。正直に言うと学校なんかつまらないし、行きたくない」と話しました。

 A子さんは、母親の言いつけをきちんと守るいわゆる「良い子」ではありましたが、学校では、同世代の友達とは話題も合わずにクラスで浮いた存在であることがわかりました。

 そこで、A子さんとは週1回のカウンセリングをおこなっていくことになりました。

 幼い頃から子どもは、親からのしつけを通して、価値観や規範を自分の内部に取り入れながら成長していく。これは「~すべき」「~しなければならない」といった理想的で厳しい価値観である。しかし、思春期に親離れが始まると、同年代の同性との親密な交流が始まるので、子どもは親以外からの新しい価値観を取り入れるようになる。親からの厳しい価値観は、自分の内面からわき出る、時代に即したものへと変化していく。

 A子さん母娘では、それぞれの「親離れ」「子離れ」が進んでいませんでした。

 心を許せる親しい友達はいないため、母親に秘密を持つこともなく、悩みを全て相談してきたことで、A子さんの価値観や規範は、依然として変わることがありませんでした。そのため、すでに親離れが進み、価値観や規範が変化してきている友人とは、どうしても話が合わなくなります。A子さんの発達課題の停滞が、拒食症の病気の背景に隠れている心の問題として存在していることが、徐々にはっきりしてきました。

 「あなたの中にはお母さんのそっくりさんがいるみたいね。お母さんの言うとおりにすることが悪いわけじゃない。でも、周りの友達は、親からの教えを尊重しながらも、自分なりに変えてきているんじゃないかな」

 私がそう言うと、A子さんははっとした様子で、「みんなそうかもしれません」と答えました。(つづく) (関谷秀子 精神科医)

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shisyunki-prof200

せきや・ひでこ
精神科医、子どものこころ専門医。法政大学現代福祉学部教授。初台クリニック(東京・渋谷区)医師。前関東中央病院精神科部長。

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中学生で経済や投資を学ぶとは思いませんが、時間や手間、考えの同調を、孤独や休息の時間も含めて、誰との時間にどのように割り振るのか? 核家族化で親...

中学生で経済や投資を学ぶとは思いませんが、時間や手間、考えの同調を、孤独や休息の時間も含めて、誰との時間にどのように割り振るのか?
核家族化で親との時間が増え、金銭と自由の問題も絡み価値観の自由度が無くなるのは少なくない家庭で起こる現象です。
使った時間や手間に伴い変化が生まれますが、そこに成長期の身体や社会の様々な問題と共に認知の問題も時に発生します。

本文は醜形恐怖や社会不適合ですが、受験やスポーツでの結果に人間関係が絡めば、未熟な心は壊れ、二次的に体が壊れます。
成長期は心身ともに不安定なので、人によってはある程度太ったり痩せたりする方が正常ということも知られるべきでしょう。
また、人と違っていることや孤独な時間が多いことは不利は多くても悪いことではないということも。
本当に心や体を壊すことに比べれば、半年や一年の遅れなど大したことではない。(日本社会はまだそういう文化が優位でないのも複雑。)

本当はマイペースで成長出来たらいいのですが、社会が許さない問題もあります。
小さな社会の同調圧力も大きいです。
医者社会でも働き方改革は進まず、若手医師や真面目な女医が苦しんでいるのはおかしいし無駄だし患者のためにもなりません。

自分も悩みをどう表現して解決していいかわからない10代20代を過ごし、どうしようもない現実への態度も含めてアドバイスをくれる人がいたらとも思いましたが、だからこそ今現在真面目な意見を考えられる不思議です。

ある面での不幸を受け止めて修正するのもまた、生きていくうえでの技術ではないかと思います。
例えば脚が太いことはその人が現代風のアイドルになるには不利という不幸でも、何らかの競技や生存には筋量が多い方が有利です。
大根足の方が笑いや共感がとれることもあるでしょう。
正しいだけでなく、楽しい、気持ちいい、という判断の軸や時間を作る工夫が大事です。

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