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僕、認知症です~丹野智文44歳のノート

医療・健康・介護のコラム

若年性認知症のドラマ「大恋愛」、夫を忘れた主人公に「自分もいつか…」

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様々な症状を背負う主人公

 アルツハイマーといえば、物忘れや道に迷うなどのイメージが強いのですが、実は症状にはかなり個人差があるのです。中には、記憶は比較的保たれているけれど、服の前後や上下が分からなくなって一人では着替えができないという人もいるし、計算ができなくなる人、機械や器具の使い方が分からなくなる人もいます。

 それがこのドラマでは、MCIの段階から、様々な症状が主人公を襲います。このように、いろいろな症状を併せ持つ人もいるのかもしれませんが、全員がそうだというわけではありません。おそらく、脚本を書くために何人もの当事者に取材したのではないでしょうか。そして、複数の人の症状を全部詰め込んでしまったのかな……と、想像しました。

進行の速さに膨らむ不安

 また、病気の進行もかなり速く描かれているように私には思われました。毎回、症状や進行のスピードは様々だという注釈が画面に出ますが、それでもこのドラマを見た人は、「認知症になるとこうなる。認知症は怖い、認知症にはなりたくない」と思うのではと、心配になりました。

 私自身、同僚の顔を忘れたり、逆に通りすがりの人が知り合いのように思えたりと、人の顔を誤認識する特徴があります。ですから、主人公が夫のことが分からなくなった場面では、「こんなに早い段階で、家族の顔を忘れることがあるものだろうか」という疑問と、「もし自分もいつか、妻の顔を忘れてしまったら…」という不安が、ない交ぜになりました。

妻と娘たちには好評…次女の成長を実感

 ドラマの視聴率は上々だったようで、私の周り(特に女性)でも「よかったよね~」という声が上がっていました。妻や2人の娘たちも、自分たちとは切り離したフィクションとしてドラマを楽しんでいるようでした。

 もし、私が認知症と告知された直後にこのドラマを見ていたら、家族も不安のどん底に沈んでいたかもしれません。実際、当時まだ小学生だった下の娘が、若年性認知症の男性が出てくる「ビューティフルレイン」というフジテレビ系列のドラマの再放送を見て、「パパと一緒なんだよね? 大変だね」なんて言っていました。

 その次女が今では、「ドラマなんだから」と、認知症の描き方に疑問を唱える私をいさめるようになったのです。診断を受けてからもうすぐ丸6年になりますが、その間、家族は目の前の私を見てきました。そして、認知症を過度に恐れる必要はないことを理解し、メディアに登場する「認知症」を冷静に見られるようになったのだと思います。

恋愛ドラマとして楽しんでもらえたら…

 私と家族とでは、評価が全く分かれたこのドラマ。他の認知症の人はどう受け止めたのでしょうか? 

 実は、私の周りの当事者の間では、ほとんど話題にならなかったのです。私のように30代で認知症を発症するのは、やはり少数派です。若い女性が主人公の恋愛ドラマは、年配の人には刺さらなかったようです。

 今後、「大恋愛~僕を忘れる君と」を再放送やDVDなどで見る人もいるでしょう。その時はぜひ、「認知症になっても、みんながこうなるわけじゃない」ということを頭の片隅に置きながら、恋愛ドラマとして楽しんでもらえたらいいと思います。(丹野智文 おれんじドア実行委員会代表)

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丹野智文(たんの・ともふみ)

 おれんじドア実行委員会代表

 1974年、宮城県生まれ。東北学院大学(仙台市)を卒業後、県内のトヨタ系列の自動車販売会社に就職。トップセールスマンとして活躍していた2013年、39歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断を受ける。同年、「認知症の人と家族の会宮城県支部」の「若年認知症のつどい『翼』」に参加。14年には、全国の認知症の仲間とともに、国内初の当事者団体「日本認知症ワーキンググループ」(現・一般社団法人「日本認知症本人ワーキンググループ」)を設立した。15年から、認知症の人が、不安を持つ当事者の相談を受ける「おれんじドア」を仙台市内で毎月、開いている。著書に、「丹野智文 笑顔で生きる -認知症とともに-」(文芸春秋)。

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