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ポリープ切らずに治す…「声の衛生」関心高まる
歌手や教師など、声をよく使う人にみられる声帯ポリープ。声帯にできた「こぶ」を手術で切除することが多いが、専門家の生活指導で切らずに治す「声の衛生」への関心が高まっている。国立病院機構東京医療センター(東京都目黒区)の医師、角田晃一さんは「手術と決める前に医師と十分に話し合ってほしい」と呼びかけている。(鈴木希)
生活上の指導中心
声帯は気管の入り口にある。開閉する左右のひだを閉じ、はき出す空気で震わせて声を出す。無理に声を出すなどして声帯に炎症が起き、内出血して傷ついた部分が腫れて盛り上がるのが声帯ポリープ、表皮がタコのように分厚くなるのが声帯結節だ。声がれなどの症状で気付くことが多い。
治療は、声をできるだけ出さずに安静に保つことが基本。初期であれば薬で治ることもあるが、症状が続くと、切除手術が選ばれることが多い。ただ、医師の技量によって、手術後に声質が変わる可能性がある。手術はうまくいっても、ポリープや結節が繰り返しできることもある。
歌手に歌唱指導を行う東京都在住の山崎泉さん(69)は、のどを酷使した影響で2000年頃、声の不調が気になった。角田さんに診てもらい、声帯ポリープと言われた。
角田さんの指導で、マスクを常に着用し、声をなるべく出さず、吸入器でこまめにのどを湿らせた。約40日間続けると、ポリープは消えた。「私にとって声帯は代わりのない『楽器』。手術せずに治って安心した」と山崎さんは振り返る。
声の衛生は、生活上の指導が中心だ。もともと声をよく使う人が多いため、広い場所ではマイクを使ったり、騒がしい場所では会話を避けたりするなど、医師や言語聴覚士らが、それぞれの患者に合った対処法を指導する。
東京大病院耳鼻咽喉科・頭 頸 部外科医師の二藤隆春さんは、「似たような症状でも喉頭がんや、声の衛生指導で治りにくいタイプの人もいる。専門家の診断と指導を受けて取り組むことが大事」と指摘する。
一部の医師らが実践していた声の衛生指導の効果を科学的に検証するため、角田さんら国立病院機構11病院の耳鼻咽喉科医のチームは、15年2月~17年3月に受診したポリープや結節の患者で、手術を予定している200人を調査した。
医師らが指導を行うグループと、生活上の注意を喚起するだけのグループとに分け、受診から2か月後の声帯の状態を確認したところ、指導した方は61%でポリープなどが消失した。注意喚起で消失したのは26%にとどまり、指導の効果を裏付ける結果となった。
声帯萎縮には体操
一方、同じ声がれでも高齢者の場合、ポリープなどが原因ではなく、加齢で声帯の筋肉が弱まる声帯 萎縮 のことが多い。声帯のひだが閉じにくくなり、飲食物が誤って気管に入り、肺炎を起こす人もいる。
簡単な予防体操がある。イスに座って座面の両脇を握り、1~10の数字を順に言う瞬間、胸を張り、短く区切って発声するのがポイントだ。「いーち」とのばすと声帯に負担がかかる。角田さんは「カラオケや詩吟などの趣味、おしゃべりを楽しむことも予防につながる」と話している。
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