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[展望2019]一人ひとりに医療あり

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医療部長 館林牧子

[展望2019]一人ひとりに医療あり

 「『高齢者の延命が無意味なんてことはあり得ない』という医師の言葉に励まされました」

 高齢者の抗がん剤治療を取り上げた昨年の医療ルネサンスの記事に、80歳代の女性からこんな反響をいただいた。

 乳がんで抗がん剤治療を受けているという。夫や子どもに先立たれて独り暮らし。川柳の句会仲間が支えてくれるというから、周囲に知己を得て、自立してお暮らしなのだろう。女性の言葉にはっとした。

 日本の国民医療費は約42兆円。高齢化が進み、10年余りで10兆円増加した。高額薬の開発も医療費の膨張に拍車をかける。抗がん剤は、医療医薬品の最大市場で、2017年度の国内売上高は1兆円を超えるという。「高齢者に若者と同じ、高額ながん治療は控えるべきだ」という声も聞かれる。全体を考える時、私たちはつい、個々の顔を思い浮かべるのを忘れてしまう。

 丁寧な議論をしていきたい。高齢になるほど個人差が大きく、一律に年齢で線引きできない。「延命」と言っても、まだお元気なのか、命のともしびが消えなんとする段階なのかで、意味合いは違う。皆さんがこの女性の立場だったらどう思うだろうか?

 「(子どもを作らない)性的少数者(LGBT)は『生産性がない』」という言葉を思い出した。高齢者、子どものいない人、高額な治療がなければ生きられない難病患者――。いつ、誰が、「社会のお荷物」として非難されるかわからない社会は健全とは言い難い。

 こういう時だからこそ、まず、今の医療に無駄がないのかを見直してみたい。

 例えば、複数の医療機関にかかり、何種類もの薬を飲んで、その副作用で体調を崩す高齢者。突然動けなくなって入院するなど、深刻な場合も少なくない。国も薬の適正使用を呼びかけるようになったが、「いまだに後を絶たない」と東京大老年病科教授の秋下雅弘さんはいう。

 一方で、大量に処方され、捨てられる残薬は年間100億~8700億円という推計がある。薬を必要最小限に調整すれば、副作用も減り、医療費の削減にもつながる。

 医師の長時間労働も問題になっている。不要不急の夜間受診を控える、何でも薬に頼らず、まずは生活習慣の改善を試してみるなど、私たちにできることもあるのではないだろうか。

 自らのがん経験を生かして患者や家族を支援する「CSRプロジェクト」代表理事の桜井なおみさんは、国際会議の場で海外の患者会の人たちが、医療の専門家や行政と対等に話し合う光景に驚く。患者の意見が尊重される代わりに、患者の方も自分の病気だけでなく、医療とお金を取り巻く課題も踏まえた、「中立公正」な判断が求められる。見識を広めるための研修会を開く国もあるという。

 日本でも、そんな患者会が数多く育ち、声が反映されるようになればと思う。

 冒頭の女性は「これからも生きる希望を与えてくれるような記事を期待している」と締めくくった。誰にとっても命は一つ。限られた資源のなか、一人ひとりがより良く生きるためにどうしたらいいか。皆さんと一緒に考え続けていきたい。

  医療部  最新の治療法や医療政策など医療・健康問題を取材する専門部署。長期連載「医療ルネサンス」や「病院の実力」などを担当。部員は19人。

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