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認知症介護あるある~岡崎家の場合~

介護・シニア

認知症の人にあだ名…「親しみ」それとも「無礼」?

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介護スタッフが父さんに「大先生」

 以前、こんなことがありました。

 あるデイサービスの男性スタッフが、父さんに「先生」というあだ名をつけました。父さんは教師だったわけではありませんし、そんなあだ名で呼ぶのはそのスタッフだけです。

 10年近く同じデイサービスに通い続けている父さんが、いつも偉そうにしている姿からそう呼んだのかもしれません。「先生」と連呼するのを送迎のときに耳にした母さんと私は、何ともモヤモヤとした気持ちになりました。ただ、父さんがどう思っているのかを聞いてみると「別に」と、特に気にしていない感じだったので、ひとまず様子を見ることにしました。

 するとそのスタッフは、さらに調子に乗って「大先生」と呼ぶようになったのです。これには父さんも「イヤだ」と言うようになりました。そんな父さんや私たちの気持ちに気づいていないのか、そのスタッフは、その後も父さんのことを「大先生」と呼び続けていました。

子供のような呼び方には賛否両論

 特に認知症の進んだ人の場合、その人をどう呼ぶかという問題は、「認知症介護あるある」の一つです。子供のような言動が増えた認知症の人を、介護する人が、あだ名や「〇〇ちゃん」と呼ぶことがあるのです。

 それについては「親しみを込めた呼び方で、互いの距離が縮まる」という考え方がある一方で、「年長者に対する敬意に欠ける」という見方もあり、賛否両論です。ただ私個人としては「ケースによる」と思っています。

女学生に戻った女性の場合…

 私がヘルパー2級の資格を取得するために実習に行った施設には、「〇〇ちゃん」と呼ばないと返事をしてくれない利用者さんがいました。彼女は認知症により、結婚する前、さらに女学生の時代に戻って生きていました。なので、結婚後の名字で呼んでも反応しません。

 そのときは「なるほど」と思い、人生の大先輩であるその方に尊敬の念をもって「〇〇ちゃん」と呼ばせていただきました。施設のスタッフも、「〇〇ちゃん」と呼んでいても、その対応からは利用者さんとしてはもちろん、人として年長者に対する配慮もしっかり感じられ、彼女にもそれが伝わっているようでした。

 ですが、父さんの場合は違うのです。父さんは「大先生」と呼ばれることを「イヤだ」と言っています。その呼び名には敬意など込められていないことが、父さんにもわかっていたのでしょう。

 私が「あのスタッフに、父さんをあだ名で呼ぶのをやめるように言おうよ」と母さんに話したときには、「もう、施設長に伝えたわよ」とのこと。母さん、さすがです。そのスタッフは他にもトラブルがあったそうで、我が家にも後日、施設長さんが直々に謝りに来て下さいました。

認知症でもわかる「尊敬の念」

 どんなに認知症が進んでも、「尊敬の念」や「感謝の気持ち」、逆に「子供扱い」や「バカにしている」ということを、介護される人は介護する人の言葉や態度から感じ取っています。身内となると、そうはわかっていても難しいときもありますが、そこは気を付け続けなくてはと自戒しています。なぜなら、私の姿をたー君は見ているのですから。(岡崎杏里 ライター)

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認知症介護あるある~岡崎家の場合~

岡崎杏里(おかざき・あんり)
 ライター、エッセイスト
 1975年生まれ。23歳で始まった認知症の父親の介護と、卵巣がんを患った母親の看病の日々をつづったエッセー&コミック『笑う介護。』(漫画・松本ぷりっつ、成美堂出版)や『みんなの認知症』(同)などの著書がある。2011年に結婚、13年に長男を出産。介護と育児の「ダブルケア」の毎日を送りながら、雑誌などで介護に関する記事の執筆を行う。岡崎家で日夜、生まれる面白エピソードを紹介するブログ「続・『笑う介護。』」も人気。

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日野あかね(ひの・あかね)
 漫画家
 23歳で少女漫画誌でデビュー。現在は、生まれ育った北海道で夫と暮らす。2005年にステージ4の悪性リンパ腫と宣告された夫が、つらい治療を乗り越えて生還するまでを描いたコミックエッセー『のほほん亭主、がんになる。』(ぶんか社)を12年に出版。16年には、自宅で介護していた認知症の義母をみとった。現在は、レディースコミック『ほんとうに泣ける話』『家庭サスペンス』などでグルメ漫画を連載中。

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