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Dr.三島の「眠ってトクする最新科学」

コラム

よい睡眠をとる秘けつは「脳温」を下げること 正しい入浴と運動で効果的に

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お風呂や運動は脳温の「てっぺん」で

 では睡眠の質を良くするため、脳温の下降速度を速くするにはどうしたらよいと思いますか? 夕方過ぎの脳温が最高になる時間帯を滑り台のてっぺん、明け方の脳温が最低になる辺りを滑り台の出口と考えてみてください。滑り落ちるスピードを速くするには滑り台のてっぺんを高くして、「滑り台の傾斜」を急にしてやるのが最もシンプルな方法ですね。そのための効果的な生活習慣が、入浴と運動なのです。

 例えば、普段、就寝する3時間ほど前、脳温が最も高くなる時間帯に40~42度のお風呂に15~20分程度入ると、脳温は短時間で約0.6~1.0度上昇します。同じような加温効果を運動で得るには、50分ほどの歩行運動が必要で、これを実践するのは結構、大変ですね。それに比べ、入浴は、非常に楽ちんな脳の加温方法であると言えます。

 さて、就寝時刻が近づいているときにこのような脳温の上昇が生じると、生体は、元々の適正な脳温に戻すために手足の 末梢(まっしょう) 血管を一気に拡張して血流を増やそうとします。皮膚表面から熱を逃がして血液を冷却し、脳に戻してやるためです。冷えた血液によって脳や内臓が冷却されます。その結果、「滑り台の傾斜」が急になり、睡眠の質が向上するのです。

睡眠は脳のエアコン

 そもそも滑り台の傾斜が急になると、なぜ眠りが促されるのでしょう。そのポイントは「脳が冷えると眠くなる」のではなく、「脳を冷やすために眠くなる」ということです。睡眠、特に霊長類で発達した深いノンレム睡眠は、日中に過熱状態になった脳を保護していると考えられています。睡眠中は神経活動が低下し、体も動かさないため脳のエネルギー消費量が低下します。また、横になることで手足に血液が回りやすく、熱を逃がしやすくなります。その一つ一つが脳の冷却に効果的なのです。そのため、「睡眠は脳のエアコンである」とも言われます。

 このように入浴や運動で睡眠の質が向上するのは、「睡眠が必要になる脳の状況」を作り出したためです。一種の「マッチポンプ」であると言えます。マッチが入浴や運動、ポンプが睡眠です。そう考えると睡眠はエアコンならぬ消防車。消防車を呼ぶために無理やり火事を起こしている、という物騒な話であるとも言えます……。

 入浴や運動をする際には、注意すべき点もあります。

1)入浴後に急に寒い場所に出ないようにしてください。特に冬季はヒートショックにも要注意です。

2)循環器系の持病がある方は、無理な加温は負担になります。浴室内が暖かければ半身浴もおすすめです。

3)入浴後に体のほてりが続き、就寝時刻になっても脳温が低下しない人もいます。「就寝の3時間前」を目安に適宜、時間帯を調整しましょう。

4)就寝時刻近くに強い運動を行うと、交感神経が刺激されて眠りの質がむしろ悪くなるときがあります。運動は、入浴よりも少し早いタイミングで行うことをすすめる研究者もいます。

5)より軽い有酸素運動の場合、快眠効果を得るためには3~6か月かかるというデータもあります。根気よく続けましょう。

 これまでの説明でお分かりのように「滑り台のてっぺん付近」で入浴や運動を行うのが効果的です。逆に、午前中や日中に入浴しても、残念ながら睡眠改善効果は得られないことも分かっています。(三島和夫 精神科医)

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三島和夫(みしま・かずお)

秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授

 1987年、秋田大学医学部卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、スタンフォード大学睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事。著書に『不眠症治療のパラダイムシフト』(編著、医薬ジャーナル社)、『やってはいけない眠り方』(青春新書プレイブックス)、『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(共著、日経BP社)などがある。

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