Dr.イワケンの「感染症のリアル」
医療・健康・介護のコラム
リンゴ可愛や、可愛やリンゴ でも可愛くはないリンゴ病
大人の症状は、高齢女性に多い「巨細胞性動脈炎」に似ることも
ご高齢の女性に多い病気に巨細胞性動脈炎という病気があります。側頭動脈炎とも呼ばれ、熱とか頭痛などの体が痛む病気です。これは感染症ではなく自己免疫疾患という、自分の免疫機能が自分を攻撃する病気なのです。が、大人で起きるパルボウイルスB19感染の症状は、この巨細胞性動脈炎の症状によく似ていることがあるのです。
「ばあさんが全身痛がっていたら巨細胞性動脈炎(あるいは、その類縁疾患)、おばさんが全身痛がっていたら、パルボ」というのは、研修医にこっそり教える、わりと役に立つ診断の秘密ですが、とても患者さんには言えないよね(言ってるけど)。ジョークと研修医教育はキワドイほうが効果的なのです、マジで。
すごい貧血による心不全も 妊婦感染で赤ちゃん死亡のリスク
さて、パルボウイルスの問題はこれだけにとどまりません。このウイルス感染で、ときにものすごい貧血が起きることがあるのです。貧血とは、フラフラっと立ちくらみがして……ってやつではありません。一般社会でよく誤解されているのですが、血液の中の赤血球が少なくなるのが貧血です。
貧血がひどくなると酸素を運ぶことができなくなり、呼吸が苦しくなります。心臓ががんばって少ない酸素を運ぼうと頑張るので、心不全になることもあります。
そして妊婦さんがパルボウイルス感染で貧血を起こすと、お 腹 のなかの赤ちゃんの酸素が足りなくなり、赤ちゃんが心不全になったり死亡したりするリスクがあるのです。
予防法も治療法もなし 早期診断が一番大事
妊婦というのは本当に感染症対策が難しく、妊娠中にかからないほうがよい感染症がたくさんあるのです。風疹 然 り、梅毒然り、海外のジカウイルスもそうですし、パルボウイルスもまたそうなのです。
というわけで、パルボウイルスとリンゴ病。たいていは自然に治る軽い感染症ですが、ときに結構やばい感染症です。残念ながら風疹と違って予防法がなく、梅毒と違って治療法がないパルボウイルス感染症。でも、早期診断をして貧血の治療(輸血など)をすれば患者や子どもの生命を守ることも可能です。感染症はやはり、きちんと診断するのが一番大事なのです。(岩田健太郎 感染症内科医)
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