子どもの健康を考える「子なび」
医療・健康・介護のコラム
不慮の事故(16) 情報分析で再発防止を
このシリーズでは、小児科医で緑園こどもクリニック(横浜市)院長の山中龍宏さんに聞きました。(聞き手・萩原隆史)
小児科医をやっていると、やけどや誤飲など、いろんな事故に遭った子どもが絶えず訪れます。今でこそ、日本小児科学会やNPO法人「セーフ キッズ ジャパン」で事故防止に取り組んでいますが、医師になって最初の10年ほどは、「何で気を付けないんだ」「親も不注意だなあ」と思っていましたね。
転機は1985年でした。静岡県内の公立病院に勤務していた私のもとに運ばれてきたのは、地元の女子中学生。プールの排水口に足を吸い込まれて溺れ、その日の夜に亡くなりました。
排水口に柵があれば吸い込まれなかったはずです。よく調べると、毎年同じような事故が各地で起きていました。ショックでしたね。「何でこんな簡単な対策がとれないのか」と。活動を始めたのはそれからです。
当時、0歳を除く未成年者の死因の1位は「不慮の事故」でした。ここ数年は「先天性の病気」や「がん」が1位の年齢層もありますが、未成年者全体で見れば、今も「不慮の事故」が目立ちます。健康を害するという意味で、事故は病気と同様に重大な健康問題といえます。
ところが当時も今も、同じパターンの事故が繰り返されています。なかなか解決しない理由の一つは、十分な情報がないことです。たいていの場合、親は自分の不注意を責め、外部に事故の詳細を伝えません。「そっとしておいて」と口を閉ざす人が多いのは、心情を思えば仕方ないことかもしれません。
けれど、十分な情報を集めてきちんと分析し、すぐに対策をとる社会的な仕組みができてこそ、同じ悲劇を断ち切れるのではないでしょうか。事故の情報を詳細に伝えていただくことで、再発防止につながる解決策が必ず見つかると信じ、今後も活動を続けていきます。(おわり)
【略歴】
山中龍宏(やまなか・たつひろ)
1947年、広島市生まれ。小児科医。東京大医学部卒。子どもの事故防止に取り組むNPO法人「セーフ キッズ ジャパン」(東京)理事長。
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ミスやアクシデントはしょうがないものも多いです。 人間も不完全なら、人間が作り出すシステムや道具も不完全だからです。 それでもおおむね時代の変化...
ミスやアクシデントはしょうがないものも多いです。
人間も不完全なら、人間が作り出すシステムや道具も不完全だからです。
それでもおおむね時代の変化と共に進歩し、進歩した社会ゆえの問題もあちらこちらに見られます。
本文を見て、昨年秋の呉市で行われた病理学会を思い出しました。
妊産婦死亡のデータが出ていたのですが、若干抜けている情報や読み筋からすると違和感のある情報がありました。
真実というものは被害者の心を再度傷つける可能性があります。
医療の場合は、意図せず加害者になった人間の心身も傷つけてしまう場合もあります。
しかし、真実により近い情報をもとにしないと、想像で補う情報量が増え、よりよいデータや改善への方策が見えにくくなります。
産婦人科の有名な大野病院事件があります。
当時の医療水準や人手不足の状況からすれば弾劾するのは酷ですが、今後の運営を考えれば、より多くの画像診断医を育成し、遠隔診断も含めて高難度症例をはじき出せば、ベターな結果になるでしょう。
何も産科だけでなく、救急疾患一般にそういう傾向はありますね。
早期発見できれば、患者にも医療者にも余裕が生まれます。
今は地域の構造も社会の構造も第2次ベビーブーム世代の偏在と共にどんどん変化していますが、法制度と共に整備が進むといいですね。
命の差別をするわけではありませんが、少子化時代で、一人の意味は大きくなっているとも考えられますから。
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