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重度障害者も一人暮らし…「自立生活センター」各地に

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 重度の身体障害があっても、施設や親元ではなく独立して暮らしたい。そんな願いを支えるのが、全国各地に広がる「自立生活センター」だ。一人暮らしに必要な知識を伝えたり、福祉制度の申請や物件探しに付き添ったりと、様々な場面でサポートしている。(饒波あゆみ)

福祉制度申請や物件探しサポート

 

重度障害者も一人暮らし…「自立生活センター」各地に

北九州市のアパートで、ヘルパーと夕食の相談をする熊井さん(左)

 北九州市小倉南区のアパートの一室。「今夜は野菜のスープにしようかな」。ここで生活する脳性まひの熊井恵美子さん(62)が、ヘルパーと夕食の献立を話し合っていた。

 熊井さんは手足が不自由で言語障害もあり、障害支援区分(6段階)は最も重い6。24時間の介護が必要だ。長崎県や福岡県の入所施設で42年間暮らしていたが、2011年から一人暮らしを始めた。

 1日のうち19時間は障害者総合支援法の「重度訪問介護」を利用し、入浴や排せつ、食事などのサポートを受けている。熊井さんは生活保護を受給しており、自己負担はない。夜間の5時間は、生活保護受給者が家族以外から介護を受ける際に加算される「他人介護料」でヘルパー代を賄う。

 施設では1日のスケジュールが決まっていて、やりたいことや食べたいものを好きに決められなかった。個人的に外出する際には届け出が必要で、ヘルパーも自分で見つける必要があった。自由がないと感じていた頃、一人暮らしを始めた同じ施設の友人が、北九州市の自立生活センター「エコー」の代表、児玉良介さん(48)を紹介してくれた。

 エコーは、地域で生活する障害者を支える民間団体。障害のある当事者が中心の組織で、児玉さんも19歳の時に首を骨折し、車いすで暮らしている。

 熊井さんはエコーの自立生活プログラム(全10回)を受講。利用できる福祉制度、ヘルパーとの関係作りのコツ、家計簿のつけ方、ヘルパーに指示して食事を作る方法などを学んだ。車いすでバスや電車などを利用する経験も積んだ。

 2年ほどの準備期間には、つらい思いもした。住居探しの際に、不動産業者や大家から「車いすの人が生活できる物件はない」と門前払いされた。火の不始末や事故を心配して断られたこともあったが、幸い、理解ある業者と契約できた。

 今は海や映画、居酒屋に行けるようになり、おかずを分けてくれる近所の知り合いもできた。「今が青春。強い意志があれば、施設を出て自立できる。次の夢は結婚すること」とはにかむ。

 エコーではこれまで3人の自立を支援した。児玉さんは「重度の障害があっても、自由に外出し、地域で自分らしく生きたいと願うのは当然の欲求。本人の思いとセンターの支援があれば実現できる」と話す。

自立生活センター  障害者が地域で自立して暮らせるよう支援する民間団体。障害のある人が代表を務め、当事者目線で活動しているのが特徴。運営費は個人・団体の会費や企業の助成金、ヘルパー派遣事業の収益などで賄っている。全国自立生活センター協議会(東京)によると、11月末現在、123か所が加盟。

 

 親元からの自立を選択した人もいる。筋ジストロフィーなどの難病を抱える長崎市の山口和俊さん(31)は、人工呼吸器と胃ろうをしており24時間の介護が必要。実家で暮らしていたが、親もいずれ介護ができなくなると不安だった。

 当時は長崎県内にセンターがなかったため、エコーや鹿児島県のセンターなどの協力を得て、16年に一人暮らしを始めた。さらに、「障害の重い自分だからこそ、よりよい支援ができるはず」と17年に自立生活センター「こころ」を設立した。「将来に不安を感じている人たちに、新しい生き方の一つとして自立という選択肢を示したい」と語る。

1日~1週間事前体験も…鹿児島のセンター

 

 福岡市では17~19日、各地のセンターが集まる全国セミナーが開かれ、情報交換などが行われた。各センターでは当事者同士で経験や思いを話し合うピアカウンセリングなども行っている。自立に向けた資金を貸し出す団体もある。

 鹿児島市の「てくてく」は、アパートの一室を借り、一人暮らしをする前に1日~1週間ほど暮らしてもらう「自立生活体験室」として活用している。「どういう支援が必要か具体的に考えるための部屋です」と担当者は話す。

 宮崎市の「YAH!DO(やっど)みやざき」や大分県別府市の「ぐっどらいふ大分」は、事務所の一部に体験室を設けている。

 

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