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医療・健康・介護のコラム

高級車2台買えた!? 不妊治療の驚愕の費用

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「赤ちゃんに会えるなら安い」 金銭感覚マヒの危険

 このような話をすると、不妊治療を知らない方はびっくりされます。「お金持ちしかできないの?」と思われるかもしれません。私の友人も、不妊治療のことを話したら「へぇ。お金持ちなのねー」と言われたことがあるそうです。しかし、当然ながら治療する人がみんなお金持ちであるわけはなく、「お金がなくて治療を断念した、あるいはしようと思ったことがある」という問いには81%が「はい」と答えているのです。

 では、どこから治療費を工面しているのかというと、前出のアンケート結果では、夫婦の毎月の収入だけでは足らずに貯蓄を切り崩す人が約20%、また家族や友人から借りたり(約3%)、金融機関から借りたり(約1%)する人もいます。

 「なぜそこまでして」と思われる方も少なくないでしょう。やっていた私ですらそう思います。でも治療の真っ最中には、そこに思いが至らないのです。不妊治療のからくりの一つともいえるかもしれません。治療をしていると、とにかく「妊娠・出産するまでやめられない」と思ってしまいます。また金銭感覚が変わって、治療ファーストになってしまうため、生活全般の支出は極力抑えるのですが、治療にかかる金額はまるで必要経費でもあるかのように、躊躇ちゅうちょなく使ってしまう。「これで赤ちゃんに会えるなら安いものだ」と思ってしまうのです。

 例えば、以前から欲しいと思っていた靴がセールで値下がりしても、その金額を見て「これ、ホルモン注射1本分だなぁ」と思うと、靴は我慢して妊娠のための注射を選んでしまいます。モノの値段を見るときに、「人工授精1回分」「採卵1回分」「凍結1回分」などと、治療費と比べてしまうこともよくあることです。笑い話として話せるうちはいいのですが、それが生活を圧迫したり、その後の人生に影響が出たりしたら、さすがに問題です。

まずは検査だけでも 治療するなら助成金制度調べ、区切りを仮設定

 この不妊治療の費用の問題は長年取り上げられながらも、解決の糸口がなかなか見つかりません。やめどきが見つけにくいこともそうですが、高額なために不妊治療に対するハードルが高くなり過ぎて、治療開始が遅れてますます妊娠しにくくなるというケースもみられます。ここで私の経験からアドバイスができるとしたら、以下の三つです。

1)不妊治療は最初から高い金額がかかるわけではありません。もし、長年妊娠しない場合は、「高い」というイメージに振り回されず、検査だけでも受けることをおすすめします。もし何か原因があれば、それを治療することで妊娠への近道につながると思いますし、もし見つからなければ「治療しない」という選択もあります。治療をする、しないは、自分で決めていいのです。

2)高額な体外受精でなくても、自治体により人工授精や不妊の検査などにも助成金が支給される場合があります。支給条件や内容は各自治体によって様々ですので、自分たちの経済状況で受けられるものがあるかどうか、ぜひ一度調べてみてください。

3)不妊治療は自分で区切りをつけることが難しく、気づけばあっという間に治療費がかさんでしまうこともしばしばです。「こんなはずではなかった」と後悔しないように、何らかの区切りを仮設定しておくことをおすすめします。たとえば「治療費が○○○円を超えたら」「年末になったら」「3年続けたら」など。その区切りが来たら、一度立ち止まって考える。これまでを振り返り、まだ続けたいなら続ければいいですし、少し休んでみようかと思うなら、一時治療を中断することも方法のひとつです。

 いずれにしても、「無意識のうちに」「気がついたら」こんなに治療費を使ってしまっていた、ということにだけはならないようにしてもらいたいと願っています。

(松本亜樹子 特定非営利活動法人Fine=ファイン=理事長)

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松本 亜樹子(まつもと・あきこ)
NPO法人Fineファウンダー・理事/国際コーチング連盟マスター認定コーチ

松本亜樹子(まつもと あきこ)

 長崎市生まれ。不妊経験をきっかけとしてNPO法人Fine(~現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会~)を立ち上げ、不妊の環境向上等の自助活動を行なっている。自身は法人の事業に従事しながら、人材育成トレーナー(米国Gallup社認定ストレングス・コーチ、アンガーマネジメントコンサルタント等)、研修講師として活動している。著書に『不妊治療のやめどき』(WAVE出版)など。
Official site:http://coacham.biz/

野曽原 誉枝(のそはら・やすえ)
NPO法人Fine理事長

 福島県郡山市出身。NECに管理職として勤務しながら6年の不妊治療を経て男児を出産。2013年からNPO法人Fineに参画。14年9月に同法人理事、22年9月に理事長に就任。自らの不妊治療と仕事の両立の実体験をもとに、企業の従業員向け講演や、自治体向けの啓発活動、プレコンセプションケア推進に力を入れている。自身は、法人の事業に従事しながら、産後ドゥーラとして産後ケア活動をしている。

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