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在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活

コラム

お餅、パン、こんにゃく…窒息事故を防ぐために

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お餅、パン、こんにゃく…窒息事故を防ぐために

日本のお正月にお餅は欠かせませんよね。塩野崎家では、こんな感じのお雑煮で新しい年がスタートします

 12月の訪問栄養指導では、自然と年末年始の食事の話題になります。ある高齢女性は、「昔は数日かけておせち料理を作っていたけれど、今では買ってきたおせちの具材を重箱に詰めるだけよ。楽になりました」と笑います。毎年、介護家族や医療者から相談されるのは、「お餅の食べ方、食べさせ方」についてです。

高齢者の「不慮の事故死」1位は「窒息」

 平成28年人口動態統計で80代以上の「不慮の事故の種類別にみた年齢別死亡数百分率」を見ると、「不慮の窒息」が約30%と1位となっています。2位は「転倒・転落」、3位は「不慮の溺死・溺水」と続きます。

 「不慮の窒息」のうち、「気道閉塞を生じた食物の誤えん」は14.6%、その約半数は「食べ物がのどに詰まってしまった結果」です。もう少し下の世代の65歳から79歳までの場合でも12.5%と、窒息による死亡事故がやはり多く起きていることがわかります。お正月のお餅だけではなく、パンやこんにゃくなどを、のどに詰まらせてしまう高齢者も多くいるのです。

 毎年、お正月に「窒息で救急搬送」というニュースが流れるのを見て、「お餅禁止令」を出したくなるご家族の気持ちも理解できます。「喉に詰まるのが怖いから、しばらくお餅を食べていない」という高齢の患者さんも少なくありません。一方で「やっぱり、お正月くらいは代々家に伝わってきた特別なお雑煮やあんこ餅を食べたい」と本音を訴える方も多くいらっしゃいます。

「窒息を起こしやすい人」の特徴とは

 さて、訪問栄養指導の際に私が必ず行うことのひとつに、「食べるところを観察する」があります。食事の姿勢、食器の持ち方、食べるスピード、ひと口の量。テレビを見ながら食べているのか、だれかと話しながら食べるのかも確認します。

 ある高齢男性は、日本の高度経済成長期に建設業界で働いていました。現役時代にはお昼を食べる時間がゆっくり取れず、昼食の時間は十数分。何十年もの習慣の結果、すっかりそれが体に染みついてしまっていました。時間は十分にある今でも、ひと口の量は多く、ズルズルとすするように食べ、食べ物を飲み込む前に次を口へ入れてしまいます。食べるスピードも速く、時々むせこみながら食べていたのです。そのような人が、お餅などの「詰まりやすい物」を急いで食べたら、窒息のリスクは高くなります。

窒息を起こしやすい人の食べ方の特徴は、

  • 丸のみ、かきこみ、すすり食べをする
  • 早食い、大食い
  • 食べながらしゃべる

また、食べ方以外の特徴もあります。

  • のみ込む力が低下している
  • 視力や認知力が低下している(ひと口の量が多すぎてしまう)
  • 咀嚼(そしゃく) 力が低下している(義歯の不適合や歯の欠損)
  • 麻痺などが原因で口の中に食べ物が残りやすい
  • 口の中が乾燥している
  • 唾液が多すぎる(自分の唾液でむせてしまう)
  • たくさんの種類の薬を服用している( 口腔(こうくう) 乾燥の副作用や 嚥下(えんげ) 機能に影響を与える薬もある)
  • 自分で姿勢を調整できない

 当てはまる点があれば、食べる環境や食べ方、薬の種類や服用方法などを変えることで窒息事故のリスクを下げられるかもしれません。

「それでもお餅を食べたい」をかなえるための工夫

 仙台市内のグループホームに暮らす高齢男性Aさんの願いはただ一つ、「お餅を食べたい」でした。「部屋の窓枠にお餅を並べ、眺めてから、ひとつずつ食べたい」というほど、お餅が大好きなAさんでしたが、多発性脳梗塞の既往歴があり、言語聴覚士の評価によると、中等度の飲み込みの障害があります。グループホームでは、誤えんのリスクが高いために「お餅禁止」になっていましたが、男性は「どうしても食べたい」と訴え続けます。

 「どうすればより安全にお餅を食べられるか」を皆で考えることになりました。

 私は、切り餅を8分の1にカットし、ひとつひとつがくっつかないように注意しながら柔らかくゆでました。そして、表面の粘り気を消すため、「レトルト汁粉」にとろみ剤を加え、滑らかな「こしあんだれ」をたっぷりとかけてみました。ひと口ほどの大きさのあんこ餅は、さらに箸で半分に切りました。Aさんの首の角度などに注意しながら、スプーンで食事介助をして食べてもらうと、「もぐもぐ…ごくん」とスムーズに飲み込むことができたのです。Aさんはたちまち笑顔になり、「ああ…餅はやっぱり、うんめえ~なあ~」とつぶやきました。

 お餅の周りにとろみのあんをまとわせることで、口や喉の粘膜に張り付きやすい「付着性」を低下させることができます。これは、飲み込みの障害がある方の料理を作る際のテクニックのひとつ。お雑煮などの汁ものでも、「つゆ」に片栗粉などでとろみをつけるだけで、とても飲み込みやすくなります。

 その後、Aさんは住み慣れたグループホームで穏やかに暮らし、生涯を終えました。亡くなる前に大好きなお餅を食べることができて、本当に良かったと思います。「食べたらダメ」と言うのは簡単ですが、「食べたい」の気持ちを大切にできるサポートをしていきたいと思った出来事でした。お餅を見るたびに、Aさんの笑顔が思い出されます。(在宅訪問管理栄養士 塩野崎淳子)

参考文献 「誤嚥を防ぐポジショニングと食事ケア 食事のはじめからおわりまで」迫田綾子著 三輪書店2016年第3刷

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塩野崎顔2_100

塩野崎淳子(しおのざき・じゅんこ)

 「訪問栄養サポートセンター仙台(むらた日帰り外科手術WOCクリニック内)」在宅訪問管理栄養士

 1978年、大阪府生まれ。2001年、女子栄養大学栄養学部卒。栄養士・管理栄養士・介護支援専門員。長期療養型病院勤務を経て、2010年、訪問看護ステーションの介護支援専門員(ケアマネジャー)として在宅療養者の支援を行う。現在は在宅訪問管理栄養士として活動。

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