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[読者と記者の日曜便]虐待根絶へ 母たちの行動

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[読者と記者の日曜便]虐待根絶へ 母たちの行動

 今年も残り2週間です。つい先日発表された「今年の漢字」が「災」だったように、この1年は、西日本豪雨があり、大阪や北海道では大地震……。子供に災いとなるむごい事件も起こりました。

 「もうおねがい ゆるして ゆるしてください」

 3月、東京都目黒区の船戸 結愛ゆあ ちゃん(当時5歳)が両親に虐待され、平仮名で許しを請う言葉をつづったノートを残し、死亡した事件は、特に胸がふさがりました。

 本日は、虐待という大きな課題に向き合おうと動き出した母親たちをご紹介します。

◇ 

 11月25日に奈良県王寺町で開かれた「子ども虐待防止策講演会」。企画した一人は、奈良県香芝市の西本亜樹さん(40)。5児の母親で4年前、地元で子育て支援サークルを作った人です。

 ご自身は「とにかく子供が大好き」と言う方ですが、サークルを通じ、「イライラして子供に手が出そう」「育児がつらくて限界」などの悩みを明かす母親を見てきました。

 「虐待は遠い話ではない」と感じるようになり、この問題を皆で考えるため、地元の母親らに呼びかけ、虐待関連の著作のあるフリーライターの講演会を実現したのです。

 協賛金集めから会場設営まで全部手作り。一緒に行動した母親たちは計8人で、その中に菊池啓さん(43)という女性がいました。小学生の頃から母親から殴られたり、「産まなければ良かった」と暴言を吐かれたりした人でした。

 「自分が悪いのだと思い、誰にも打ち明けられなかった」という過去を引きずったまま、菊池さんは母親に。子育て中、幼い頃の体験を思い出し、しばしば寝込みました。

 でも、カウンセリングを受ける過程で「心の傷からは逃げられない。だったら痛みと向き合い、虐待のない社会にするにはどうするべきか伝えていきたい」と思い始め、西本さんらの呼びかけに共感して参加しました。

 当日は、母親や行政関係者ら100人近くが訪れました。途中、聴衆で2児の母親という女性(37)が「私も虐待を受けていた」と涙ながらに告白し、講演後、菊池さんと話し込む場面もありました。西本さんは「多くの人が虐待に関心を持ってくれた」と手応えを感じた様子でした。

 以下は後日談。菊池さんは、講演会で虐待体験を告白した女性と虐待の連鎖を止める自助グループを作ろうと動き始めたそうです。「当事者だからできる発信をしていきたい」と意気込んでいました。

◇ 

 児童相談所が対応した昨年度の児童虐待の相談件数は過去最多の13万3778件に上りました。根絶するには気の遠くなる数字ですが、西本さんや菊池さんのような草の根の活動が、芽を摘む。そう信じています。(斎藤七月)

*お便りは、〒530・8551(住所不要)読売新聞大阪本社社会部「日曜便」係、ファクスは06・6361・0733、メールはnichiyobin@yomiuri.comです。ウェブサイトでも読むことができます。「日曜便」で検索を。

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