大人の健康を考える「大人び」
医療・健康・介護のコラム
患者力(1)がんと対峙 治療に参加して
このシリーズでは、元和歌山市医師会長で、田中内科医院(和歌山市)院長の田中章慈さんに聞きます。(米井吾一)
がんは、日本人の2人に1人が一生にかかる病気で、1981年から死因で第1位の“国民病”です。自分は大丈夫でも、家族や友人ががんになる可能性は高い。そんな身近な病気なのに、がんと診断された多くの人はこう言います。
「がんと告げられた瞬間に頭が真っ白になり、医師からどんな説明を受けたか覚えていない」
「どのように家に帰り着いたか分からないが、気づけば台所のいすに腰掛けていた」
「がん」という言葉に魂が揺さぶられた状態で、手術や抗がん剤などへの理解や納得が不十分なまま医師の説明に同意し、その結果、不満だけが残った――。そんなことは決して珍しくはありません。
多くの場合、患者には知識も情報もありません。だからといって、医師の言われるままに治療を受けるのではなく、患者も、がんと 対峙 し、積極的に治療に参加していくことが大切です。がんが見つかった時には打つ手がないということもあるけれど、少しでも体が楽になるように自分も努力する。そんな力を、私は「患者力」と呼びたいと考えています。
医師である私がそう考えるようになったのは、この20年間、悪性リンパ腫、大腸がん、肺がんの三つのがんを患った患者としての経験があります。悪性リンパ腫は、骨などにも転移したステージ4でした。
医師とはいえ、患者として療養にのぞむ立場は皆さんと同じです。がんとの向き合い方に、「こうあるべきだ」というものはありませんが、患者目線の考え方について話していきたいと思います。
【略歴】
田中 章慈(たなか しょうじ)
1973年、和歌山県立医科大学卒。同大学助手を経て、和歌山赤十字病院第二内科副部長。85年、田中内科医院開設。2008年から13年まで、和歌山市医師会会長を務めた。日本臨床内科医会理事。
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