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定年後 女性が輝くには(下)仲間と趣味や社会貢献
同世代で交流の場
定年後も働き続けたいという女性がいる一方、趣味やボランティアなど、自分の好きなことに時間を使いたいという女性も少なくない。子育てや仕事に忙しかった現役時代を終え、定年後の生活をそれぞれ満喫している女性たちもいる。
「腕を大きく広げて、ゆっくり呼吸してみましょう」。11月初めのよく晴れた土曜日、東京都世田谷区の多摩川河川敷で、40~60歳代の女性約10人が気功の体験レッスンを受けていた。
女性たちは「Team WIZU(チームウィズ)」のメンバー。定年前後の女性がキャリアや生き方を考えるグループで6年前に発足した。会員は30~60歳代の約70人で、年に2~3回、様々なテーマの勉強会や体験会を開いている。この日は、芝生の上で約1時間、体を動かし、その後は近くのレストランで食事とおしゃべりを楽しんだ。
設立メンバーの1人で、東京都新宿区の黒坂靖子さん(65)は、1976年に大学を卒業し、情報サービス会社に就職した。育児休業制度のない時代に出産。会社とかけ合って1年半にわたって仕事を離れることを認めてもらい、その後も子育てをしながら働き続けた。システム開発や営業で活躍し、部長職まで昇進して、60歳で定年を迎えた。
65歳まで嘱託で残る道もあったが、「趣味もやりたいし、仕事以外で社会に役立つこともしたい」と、退職した。その後は、知り合いのNPOの運営を手伝ったり、趣味の写真で撮影旅行に出かけたり。発酵食品について学ぶ講座を受講し、今年初めに「発酵マイスター」の資格も取った。
とはいえ、順調なことばかりではない。2年前の秋、子宮がんが見つかり、入院、手術した。半年間の抗がん剤治療で髪の毛がごっそりと抜け、つらい思いもした。「年を取ると、明日、どうなるかわからない。義務も責任も伴う仕事は十分やった。これからは好きなようにやりたい」と、笑顔を見せた。
「WIZUの活動で、人間関係が広がった」と話すのは、同じ新宿区の大滝知子さん(62)だ。独身で子どもはいない。同居していた両親もすでに亡くなり、今は一人暮らしをしている。
短大卒業後、大手電機メーカーに就職し、課長職だった58歳で希望退職に応じた。2度、再就職したが、職場の雰囲気や仕事のやり方になじめず、体調を崩して辞めた。
退職前に「何となく、面白そう」と参加したのがWIZUの会合。今では、親しくなったメンバーとグループの活動以外でも交流し、メンバーの事業を手伝うこともある。
「再就職では苦労もしたが、いい経験になった。今は、晴れた平日の昼に洗濯物を干したり、友人に手料理をふるまったりする生活が新鮮で、とても楽しい」と話している。
定年前後世代「充実感」女性が比率高め
内閣府の「国民生活に関する世論調査」(2018年)によると、「現在の生活に充実感を感じている」割合は、男性より女性の方が高い。50歳代では男性が70.5%に対し、女性は73.9%。60歳代では男性69%に対し、女性は73.1%だった。
「定年女子――これからの仕事、生活、やりたいこと」の著者で、エッセイストの岸本裕紀子さん=写真=は、4年前、定年前後の年齢の女性約50人に話を聞いた。「男性と同じだったのは、女性も定年に対して寂しさやむなしさを感じていたこと。違ったのは、定年後に居場所で悩む人がいなかったことだ」と話す。
岸本さんは「この世代の働く女性の特徴かもしれないが、仕事も家事も育児も担ってきたから、退職後は趣味や旅行など、好きなことに時間を使いたいのだろう」と分析し、「今後は、早期退職や再雇用など、自分で定年を選べ、働き続ける選択肢も増える。40歳代くらいから、残りの人生で何をしたいのか、考えることが必要になってくる」と話している。
(この連載は、社会保障部・樋口郁子が担当しました)
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