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Dr.イワケンの「感染症のリアル」

コラム

紛争と感染症の恐ろしい関係 ロヒンギャ難民にジフテリア流行

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 紛争? 政治? お前は一介のしがない医者に過ぎないのだから、そういう専門外の領域には首を突っ込まないほうがいいよ。そういうお叱りも、あるいはあるかもしれません。

 確かに、ぼくは紛争(戦争や内戦など)や政治については全くのド素人です。専門家としての知識や技量は持ち合わせてはいません。

 しかしですね。紛争と政治は、病気と健康に非常に密接な関わりを持っています。特に感染症は。

多くの兵士救ったナイチンゲールの感染症対策

紛争と感染症の恐ろしい関係 ロヒンギャ難民にジフテリア流行

 古くは、フローレンス・ナイチンゲールの感染症対策があります。19世紀のクリミア戦争に従軍したナイチンゲールは、病院・病棟の衛生環境を改善させれば兵士の感染症が減ることをデータで示しました。

 感染症の抵抗力、いわゆる「免疫力」と言われるものがありますが、実はこれは一義的にひとつの「免疫力」があるわけではありません。人間のたくさんの臓器のたくさんの機能が合わさって、感染症と病原体から身を守っているのです。

 で、その多様な人間の「免疫力」のうち、最強のシステムの一つが……皮膚!なのです。えー! リンパ球とか、免疫グロブリンとかじゃないんですかー?というツッコミが来そうです。もちろん、こうした細胞や分子は、人体を守るのにとても巧妙で複雑な防御システムを作っています。しかし、シンプルに見える皮膚もまた、人体を病原体から守るのにとても重大な役割を担っているのです。

皮膚が傷つくと感染症にかかりやすい

 その証拠に、皮膚が壊れてしまうと、人間は極めて感染症に弱くなります。例えばヤケド、交通事故、手術。皮膚を傷つけられた患者は非常に感染症を起こしやすくなります。皮膚病の患者さんも感染症に弱いです。新生児、特に低出生体重児も皮膚が非常に薄く、下の毛細血管が透けて見え(よって「赤ちゃん」と呼ばれるわけですが)皮膚が破れやすく、感染症にかかりやすいのです。

 で、戦争による負傷もまた、兵士の皮膚を傷をつけ、感染症にかかりやすくします。クリミア戦争でも多くの兵士が、戦いではなく、その後の感染症で命を落としたのです。当時はまだ、抗生物質がありませんでしたし。

 で、ナイチンゲールはそうした戦地での病院のあり方を革命的に改善し、多くの兵士の命を救ったのです。ナイチンゲールについては、茨木保先生の漫画「ナイチンゲール伝」(医学書院)が詳しく、またとても分かりやすいです。 ぼく自身もナイチンゲールの「病院覚え書」について少し書いていますので、 よかったらご参照ください。

 歴史上、紛争、政治と感染症(あるいはその他の病気)は、ずっと密接に関わり合ってきました。医学が進歩した21世紀の現在であっても、その関係は密であり続けています。

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岩田健太郎(いわた けんたろう)

神戸大学教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。内科、感染症、漢方など国内外の専門医資格を持つ。ロンドン大学修士(感染症学)、博士(医学)。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院(千葉県)を経て、2008年から現職。一般向け著書に「医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法」(中外医学社)「感染症医が教える性の話」(ちくまプリマー新書)「ワクチンは怖くない」(光文社)「99.9%が誤用の抗生物質」(光文社新書)「食べ物のことはからだに訊け!」(ちくま新書)など。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパートでもある。

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