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緩和ケア(下)がん治療と並行 生き方考える…早期から「いざという時に」

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「見捨てられ感」消え

緩和ケア(下)がん治療と並行 生き方考える…早期から「いざという時に」

緩和ケア外来で西医師(右)に、体調について相談する鈴木さん(1月、川崎市立井田病院で)

 がんの緩和ケアは、早期から適切に受けることで症状緩和や生活の質(QOL)の改善につながり、延命も期待できるという。国も「早期から」を推進している。診断後の早い段階から治療と並行して緩和ケアを行う取り組みを取材した。

 川崎市立井田病院かわさき総合ケアセンターでは、「早期からの緩和ケア外来」を2015年に開設。他の病院で抗がん剤治療中の患者も受け入れている。

 「それまでは終末期の患者を緩和病棟や在宅で診るのが中心で、緩和ケア外来の申し込みがあると『がん治療が終わってから来て』と断っていた」と、同センターの西智弘医師は言う。だが、国は07年からがん対策推進基本計画に「早期からの緩和ケア推進」を盛り込んでおり、「国が進めているのに、これでは患者が行き場を失ってしまう」と考え、開設を提案。院内の態勢を整え、他院で治療中の患者にも、治療と並行した早期からの緩和ケアを始めた。

  ■「心がフワッと軽く」

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 この取り組みに支えられ、今年3月、自分らしく生を全うしたのが、鈴木かおるさん(享年56)だ。

 鈴木さんに 膵臓すいぞう がんが見つかったのは13年5月。51歳だった。東京都内の大学病院で抗がん剤治療を受け、がんが縮小。手術をしたものの、翌夏に再発した。

 「大学病院で抗がん剤治療を続けながら、緩和ケアも始めたい」。看護師だった鈴木さんは、主治医から「完治は難しい」と言われ、将来やってくる「いざという時」に向けて、治療が効かなくなった時の過ごし方を相談したり、つらい時に弱音を吐いたりできる関係性を、緩和ケア医と築きたいと考えた。

 そこで、自宅近くに開設して間もない西医師の外来を知り受診。世間話をしながら、どう生きたいのか、治療の意味は何か、などの対話を重ねた。

 「大学病院では『私は大丈夫』と よろい を着けて身構えているのに、西先生の診察では心がフワッと軽くなって、毎回、泣いていた。治療を行う腫瘍内科と、生き方を一緒に考える緩和ケア外来。私の中で使い分けて、心のバランスを保っているのだと思う」と話していた鈴木さん。

 この3年ほどの間、看護師の仕事を再開したり、家族と大好きなドライブに出かけたりと、前向きに過ごしていたが、昨秋頃から体調が悪化。がん治療は断り、痛みのケアのため緩和病棟への入退院を繰り返す中、夫に見守られて息をひきとった。

 「納得いく医療を受け、病気の子どもたちの支援活動を続けるなど、本人が望む生き方ができてよかった」と、夫は振り返る。

  ■延命効果も期待

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 「最近、将来の必要性を考え、治療中のがん患者が緩和ケア外来を受診する機会が増えてきた」と、永寿総合病院(東京都台東区)緩和ケアセンターの廣橋猛医師は言う。治療と並行して関わることで「適切な症状緩和で治療もスムーズに進む。どこまで治療を続けるかを相談できる。治療が効かなくなった後の過ごし方も考えることができる」といった効果を指摘する。

 背景には、世界保健機関(WHO)が02年に提唱した緩和ケアの定義がある。生命を脅かす疾患に伴う〈1〉身体的〈2〉精神的〈3〉社会的〈4〉死への恐怖など――のつらさに対し、早期から多様な医療・ケアを提供する必要があると強調。国も、がん対策の柱の一つとして推進している。

 また10年には、米研究チームが早期からの緩和ケアの効果を報告。進行した肺がん患者について、標準治療だけのグループと、早期から緩和ケアも受けたグループに分けて比較すると、緩和ケアも受けた方がQOLがよく、生存期間も約3か月長かった。

  ■受診できない実態も

 「早期からの緩和ケア」が注目される一方、国内では、どう受診すればいいのか患者には分からないのが実情だ。実際、希望しても、がん治療の主治医に「まだ緩和ケアは早すぎる」「体の痛みがないと受診できない」と言われたり、緩和ケア外来のある病院に連絡しても、緩和病棟への入院予約しか受け付けてくれず、受診できなかったりするという。国も実態を把握できておらず、全国7000か所以上の病院に対し、緩和ケアの活動状況などについて調査に乗り出す。

 「もう治療はありません」と言われて移行する古い緩和ケアに対し、患者は「見捨てられた」と負のイメージを持ち、必要なケアを受ける機会を失ってしまう。これに対し、「治療と並行した緩和ケアは、患者にとって主治医が2人いることになり、『見捨てられ感』も 払拭ふっしょく される」と廣橋医師は話す。「患者のより良い生き方を支えるには、治療医と緩和ケア医の連携のあり方や、看護師の役割なども考えていく必要がある」

 (この連載は、生活部・本田麻由美が担当しました)

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