思春期の子どもを持つあなたに 関谷秀子
医療・健康・介護のコラム
第1部「不登校」(下) 濃密すぎる母親との関係が…
父親の存在感の希薄さと母親の過干渉
【親ガイダンス】
親ガイダンスでは、発達上の問題を抱えた子どもの親に対して、養育態度や家庭環境の改善のための助言を行う。子どもの発達に関する知識の提供や、発した言葉の背景にある本当の気持ちを親が理解し、発達促進の方向へと対処できるように援助していく。
一般的には週1回から始め、親が子どもへ安定した対応ができるようになれば2週間~4週間に間隔を延ばす。通常の診察やカウンセリングと違い、内容は子どもと親の関係に限定される。
親ガイダンスでは、どのようなきっかけで子どもが親にどんな言葉を投げつけたのか、それに対して親がどう反応したかなどのやりとりについて、詳しく聞き取ります。
例えば、子どもは親に無理難題をふっかけることがあります。投げつけられた言葉を、不安や怒りにまかせて投げ返すと、ただの親子げんかになってしまいます。「売り言葉に買い言葉」の応酬だけでは、子どもはもちろん、親も成長はしません。
さて、A君の両親です。両親はそれぞれ、相手に責任があることを主張していましたが、話を聞いている限り、それぞれの言い分自体はどちらも的はずれとは思えませんでした。
① A君が男性として育っていく上で、一番身近なモデルとなる父親とのコミュニケーションが希薄だった。
② 母親が過保護、過干渉だったため、A君の「母親離れ」は進まなかった。反対にA君の依存により、母親側の「子離れ」も進まなかった。
③ 両親は、父親の単身赴任による長年の別居生活で気持ちがすれ違い、お互いを非難し合うまで関係が悪化していた。
親ガイダンスでは、①父子の関係を改善する②母親の過保護・過干渉をストップさせることを目標にしました。
そこで父親には、時間が許す限り赴任先から自宅に戻り、A君と接する機会を増やすことを提案しました。さらに帰宅できない場合には、週末にインターネットを使ったテレビ電話を利用して、家族のコミュニケーションを図ってもらうことも伝えました。
さらに、時間が合うときには父親とA君で好きなスポーツを一緒に楽しむことをお勧めしました。思春期の子どもの体内では「性ホルモン」が上昇し始め、大人と似た欲動が生じてきます。いわゆる性欲とは異なりますが、運動で発散させることで、子どもの不安を抑える可能性があります。
親子の距離感の大切さ
母親からの過干渉を受けていたA君は、何をするのでも母親に依存してきました。これではA君の母親離れは進みません。そこで、まず母親に明らかな過干渉をストップすることを助言しました。具体的には、もうすぐ中学生になるのだから、日常生活や学校生活の管理を自分で行うということです。
親が過干渉な場合、子どもの自律性を損なう可能性があります。自分のことを自分でできなくなり、物事についての責任を負うことが難しくなります。クリニックには、学校生活の予定を自分できちんと把握していない子どもが大勢やってきます。自分自身で時間割や宿題の提出日さえも意識しておらず、すべてを母親が管理している子どもがたくさんいるのです。思春期に入った子どもは自律性を確立していく必要があります。親は過干渉にならないように見守る程度にし、必要に応じて助けてあげるぐらいが理想的です。
次に、母親にはもう一つ大切なことを助言しました。それは、A君と寝室を別にすること、A君の体のマッサージをやめることです。
小学校高学年時代は「前思春期」と呼ばれます。この時期は、性ホルモンの分泌が上昇し始めます。急に体が大きくなる一方、心と体のバランスが乱れやすくなる時期です。
つまり、いくら親子であっても、前思春期のA君にとっては母親との過剰な身体接触は不安を呼び起こす刺激になってしまう可能性があるわけです。
このように、母親と子どもの関係が濃密で、父親の存在感が希薄であると、世代間境界が乱れ、父と母と子どもの距離のバランスが崩れてきてしまいます。A君の場合で言えば、両親の夫婦としての距離よりも、母親とA君の距離が近くなりすぎていたわけです。
一般的に、「父親(母親)以上に自分が愛されている」と感じることは、子どもに大きな不安を呼び起こします。そこで世代間境界を保ち、両親が手をつなぎ、協力して子どもに接することが大切です。
幸いなことに、A君の両親は、ガイダンスを通じて現状を理解し、互いに協力していくことができました。A君と父親との関係は徐々に深まり、反対に母親への依存は薄まっていきました。A君も母親にあまりに依存している自分の現状については、抵抗感を持っていたことで、すみやかな改善に結びついたようです。
学校に復帰するまで半年ほどかかりましたが、中学受験には間に合い、父親と学校見学に行ったり、相談したりして一緒に志望校を決め、無事、合格することができました。 (関谷秀子 精神科医)
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