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在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活

コラム

美容師と歯科医師の意外な連携

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美容師と歯科医師の意外な連携

寒さが厳しくなっていく秋田県湯沢市を講演で訪れ、介護に熱い人々に出会えました

 私は美容院に行くと、担当の美容師さんとたくさんおしゃべりをすることで髪も気持ちもさっぱりします。髪の毛の手入れをしてもらっているとき、話しかけられるのが苦手な方がいる一方、「恋愛や仕事の悩み」まで美容師さんに話してしまう方もいるみたいです。

 今回は、他県で出会ったある美容師さんと歯科医師の意外な関係についてご紹介します。

秋田県湯沢市の「食介護」に熱い人々

 11月上旬、秋田県湯沢市で開催された「秋田食介護研究会公開研修会」の特別講演のため、仙台から秋田新幹線「こまち」に乗り、大曲を目指しました。真っ赤なボディーの「こまち」は、エメラルドグリーンの「はやぶさ」と連結されていますが、盛岡で分離され、秋田方面へと向かいます。車窓から見える紅葉と黄金色の稲穂の風景は見事なものでした。

 市内の研修会場では、研究会のメンバーが準備を進めていました。「秋田食介護研究会」は、医療や介護の仕事をしているメンバーだけでなく、行政や企業など多業種、多職種の方々で構成されています。職種の壁を越えて、「食介護」に関する講演会や実習を開催し、「最期まで口から食べられる街」を目指して活動しています。

 その研修会で出会った、ひょろりとした背の高い30代の男性。お仕事を聞くと「訪問美容師です」と。地元の美容師さんが「食介護」の研究会に参加するのはなぜだろうと思い、お話を伺いました。

高齢者施設で出会った2人が

 「カットデリバリーサロン」(秋田県美郷町)の佐々木匠さんは、高齢者施設の訪問美容師として、入所者の髪をカットする仕事をしています。その施設には歯科医、小菅一弘先生(秋田県東成瀬村「ジュネスデンタルクリニック」)が定期的に往診に訪れていました。通常、まず仕事上で交わることのない2人がここで出会い、「共通の利用者」の「食べる問題」に関わることになります。

 佐々木さんが別の高齢者施設を訪れたときのこと。ある女性の髪をカットしながら体調について尋ねたら、「最近あまり食事を食べていない」「上あごの入れ歯が落ちてくるし、下の歯もところどころ抜けていてよく () かめない」「歯科医院で診察してもらっても、治療が進まない」との答えが返ってきたそうです。そのとき佐々木さんは、施設の職員さんから、腕の良さや人柄について聞いていた小菅先生を思い出しました。「もしかしたら、入れ歯を治してくれるかもしれない」と。

 佐々木さんは、「いい歯医者さんがいるから、一度入れ歯を診てもらいませんか」と女性に提案し、ご家族や施設のスタッフにも了解を得て、小菅先生に紹介しました。すると、小菅先生はすぐに歯科往診に訪れ、初回の診察で上の入れ歯をぴったりと装着できるようにしてくれました。さらに、他院では保険適用にならないインプラントしか選択肢が示されなかった下の歯も、4度の往診で新しい入れ歯を作ってもらえました。

「見つけて、つなげること」で誰かが笑顔になることも

 この女性は以前よりも体重が20キログラムも減少していました。入院治療などで食事がとれない時期もあり、歯の問題だけが原因ではありませんが、低栄養状態だったそうです。入れ歯が治ったことで「これからは、もっとおいしいものを食べたいわ」と張り切っているそうです。もし、佐々木さんが歯科医師につなげなければ、この女性は軟らかいものしか食べられずに一生を終えていたかもしれません。これからは、栄養があるおいしいものをしっかりと食べることができることでしょう。

 「困っている人を見つけ、解決できる人につなげる」という佐々木さんの優しさは、見て見ぬふりをする現代の風潮とは対極にあると思います。 

 「僕の仕事は髪を切ることです。でも、高齢者の場合、普段の会話からのSOSや体調などの変化に気づいてあげることで解決することがたくさんあります。周りの人に遠慮して、自分でできないことはあきらめて、生活の質を少しずつ下げている高齢者が多いような気がします。他の人には言いにくい相談をされることもあるので、自分はつなぎ役として、連携の一端を担っていると思っています」

 「秋田食介護研究会」で出会った佐々木さんはそう語っていました。

 冬は豪雪地帯になる秋田県湯沢市。人々が協力して、厳しい冬を乗り越えてきた地域には、「困っている人をスルーできない若者」がいました。超高齢社会では、「困っていることをうまく発信できない人」が増えてくると思います。しかし、医療や介護、行政の関係者だけではアンテナが足りません。佐々木さんのような「見つけて、つなげる人」が増えることで、より住みやすく、あたたかい地域になるのではないかと思います。(在宅訪問管理栄養士 塩野崎淳子)

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塩野崎顔2_100

塩野崎淳子(しおのざき・じゅんこ)

 「訪問栄養サポートセンター仙台(むらた日帰り外科手術WOCクリニック内)」在宅訪問管理栄養士

 1978年、大阪府生まれ。2001年、女子栄養大学栄養学部卒。栄養士・管理栄養士・介護支援専門員。長期療養型病院勤務を経て、2010年、訪問看護ステーションの介護支援専門員(ケアマネジャー)として在宅療養者の支援を行う。現在は在宅訪問管理栄養士として活動。

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