老いをどこで
連載
[老いをどこで]定期巡回・随時対応型サービス(下)難解な事業名 周知に苦労
「24時間」「最期まで自宅」徐々に浸透
お年寄りが住み慣れた自宅で生活し続けるための切り札として期待されている定期巡回・随時対応型訪問介護看護。周知不足や経営の難しさなど、サービスを取り巻く課題もあるようだ。
「2017年度は、やっと黒字になりました」
今年5月、富山県内5か所で、サービスを行う社会福祉法人・ 射水 万葉会の会議室。役員からそう告げられると、出席者は一様にホッとした表情を浮かべた。サービスの責任者、宮垣早苗さん(54)らは「ずっと赤字で迷惑をかけてきた。7年目でようやくスタートラインに立てた」と話した。
同法人がサービスを始めたのは2011年6月。厚生労働省が制度を創設する12年4月より半年以上早く、全国に先駆けてのモデル事業だった。各地から視察や問い合わせも相次いだ。
だが、利用者は思うようには集まらなかった。24時間いつでも訪問出来るよう待機する職員の費用もかさんだ。
原因はいくつもあった。一つは言葉の難しさだ。
一般の人がサービス名を聞いても、何をしてもらえるのかわからない。適切な介護保険サービスを利用者に紹介する専門家であるはずのケアマネジャーにすらよく知られておらず、利用者に提案してもらえなかった。
PRのためにパンフレットを作ろうとすると、コンサルタントからは「この長い名称、なんとかなりませんか。これじゃあ、お年寄りに知ってもらうのは無理ですよ」とあきれられた。
ケアマネジャーの意識の壁もあった。介護度が重くなったお年寄りに、ケアマネジャーがまず提案するのは、有料老人ホームなどの「老人施設への入居」。実際に、東京都内のケアマネジャー(39)は「自宅を勧めて万一のことが起きた時、責任が取れないと思ってしまい、つい施設を考えてしまう」と明かす。別のケアマネジャー(42)も「経済的に施設は厳しい、本人が強く自宅を望んでいるなどの事情がないと、提案しづらいと感じてしまう」と話す。
「介護度の重い人が、最期まで自宅で暮らすという姿が、人々にイメージできていないのかもしれない」。宮垣さんらは、頭を抱えた。
毎月の赤字は、法人が運営する他の事業の収益で穴埋めした。
そこで、ケアマネジャーら専門職はもちろん、一般の住民にもサービス内容を知ってもらおうと、出前講座を始めた。「1人でもお気軽に呼んで下さい」と銘打って、公民館などでPRした。
風向きが変わり始めたのは約2年前。「経済的事情で老人ホームへの入居が難しい高齢者がいる」「夜間さえ乗り切れれば、なんとか自宅で暮らせそう」「本人が家を離れたくないと言っている」など、対応に苦慮したケアマネジャーや家族から連絡が入るようになった。
サービスを行う事業者を支援する一般社団法人・24時間在宅ケア研究会(東京)の田中潔さんは「本人や家族にとってはメリットが大きく、介護保険を運営する自治体にとっても、増え続ける介護費を抑えるのに有効なサービスといえる。周知がすすめば、事業者にとっても、決して採算の取れないサービスではない」と話している。
伸び悩む事業所数
サービスを行う事業所の数は思うようには増えていない。「月20人以上の利用がないと経営が難しい」(厚労省担当者)とされるためだ。
厚生労働省の推計では、介護保険を運営する自治体のうち、2015~17年度の3か年に「サービスを整備する予定がない」としたのは1042で、全体の7割近かった。都道府県別にみると「予定がない」とした自治体が半数以上を占めていたのは36道府県だった。
東洋大の渡辺裕美教授(介護福祉学)は「このままでは熱心に整備を進める地域と、そうではない地域の差は広がってしまう。自宅で暮らしたいと望むお年寄りがいる限り、24時間体制で訪問するサービスは欠かせない。サービスの周知や経済的な支援など、国や自治体は事業所の経営が軌道に乗るよう支えるべきだ」と話している。
(この連載は、社会保障部・大広悠子が担当しました)
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