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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

白内障手術後 脳が適応に時間かかり、異常訴える患者も

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 白内障術後不適応の話を続けます。前回は、手術によって目の状態が変わることによる不適応についてお話しました。今回は、手術や眼内レンズには直接的な原因を求められないケースを考えます。

自覚なかった緑内障 白内障手術をきっかけに気づいた

白内障手術後 脳が適応に時間かかり、異常訴える患者も

 75歳の女性Hさんは、白内障と緑内障という目の2大疾患を持っていました。先ごろ、地元で両目の白内障手術を受けて視力は改善したのですが、視野の異常感を強く訴えました。調べても術前と術後の視野はほぼ同等です。困った主治医は、私を紹介しました。

 「両目の視野が、上下左右から押し寄せるように圧迫される」「特に下から上へ、防波堤が動くような感じで押し寄せる」。診察室でHさんは、そう語りました。

 視野の状態を改めて調べると、両目とも上方の視野の中に明らかな感度低下があり、かなり進行した緑内障の視野異常だとわかりました。その視野異常は、以前から医師に指摘はされていたのですが、本人に自覚はありませんでした。ところが、白内障を手術してから、上記のように視野の異常かと思われる現象を自覚するようになったのです。

手術後、脳はいったん不適応状態に

 緑内障の視野異常は非常にゆっくり進行するので、中心近くまで視野異常が及ばないとなかなか自覚できません。特に両目で見ていると、左右の目で視野をカバーし合うので気付きにくいのです。ところが、白内障を手術すれば視覚の利用環境が一気に変化します。

 このコラムで再三取り上げているように、ものは目でみているのではなく、目から脳に信号が伝わってはじめて見えるのでした。視覚利用環境が変更されれば、それに従って信号を受け取る脳の側も変更されなければいけません。チャンネルを合わせ直さなければいけないわけです。

 脳機能の研究によれば、手術によって視覚利用環境が変化すると、脳はいったん不適応状態になるが、1日から数日のうちに再び適応するのだそうです。しかし、中にはなかなか適応できないケースもありうるのではないでしょうか。

 Hさんの場合も、手術後、長年使用してきた脳のチャンネルを、新しいものに更新をする際に、それまでは気付かなかった視野異常に気付いたのではないかと私は思うのです。

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任し、15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人---心療眼科医が本音で伝える患者学」、「健康は眼に聞け」「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、医療小説「茅花流しの診療所」(同)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半には講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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