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[老いをどこで]定期巡回・随時対応型サービス(上)深夜訪問 在宅の命つなぐ

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[老いをどこで]定期巡回・随時対応型サービス(上)深夜訪問 在宅の命つなぐ

 お年寄りができるだけ長く自宅で暮らせるよう厚生労働省は6年前、24時間対応の「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」と呼ばれる介護保険サービスをつくった。当時、切り札とされたサービスは今、どう利用されているのか。全国に先駆けて導入した社会福祉法人・ 射水いみず 万葉会の事例から現状と課題を考える。

 午前3時過ぎ。富山県射水市の一軒家に1台の車がとまった。この日夜勤の女性介護福祉士、今村一文さん(54)は家族と約束している方法で玄関を開けた。血圧計などが入ったバッグを持って、静かに家の中に入った。訪問先には、寝たきりの女性(98)が暮らす。

 今村さんは、気配に目を覚ました女性に「よく眠れましたか」とほほ笑む。手早くおむつを交換し、血圧などを測って、全身の状態を確認した。

 その後、喉の動きに注意を払いながら、コップで慎重に栄養価の高いジュースを飲んでもらった。女性は物を飲み込む力が衰えており、専門職がいなければ食事や水分補給が難しい。深夜も含め1日4回訪れる今村さんら職員の介助が頼りだ。

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目を覚ましたお年寄りに、体調をたずねる今村さん(午前3時半頃)

 女性は昨年夏、入院先の病院で「老衰であまり長くはない」と告げられていた。要介護5で、最も手厚い介護が必要な状態だ。家族は、本人の希望もふまえ「最期は家で」と、自宅に戻した。

 同居する60歳代の息子家族は共働きで「仕事など、これまでの生活を続けながら介護ができるのは訪問のおかげ」と感謝する。約30分後、再び眠りについた女性を見て、今村さんはそっと家を出た。

 次の訪問先は、寝たきりの女性(90)の自宅だ。わずかに動く両腕で、ベッドやテレビのリモコンを操り、1人で暮らしている。こちらの女性も、1日4回の訪問が命綱だという。

 今村さんはこの日、午後10時から翌朝7時までを担当。市内で暮らす85~98歳の自宅約10軒を1~2回ずつ訪れ、緊急の呼び出しに備えた。

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おむつ交換や朝食の準備のため、利用者宅の廊下を行き来する今村さん(午前4時頃)=いずれも富山県射水市内で

 同県内5か所でサービスを行う同法人の利用者は約130人。一人暮らしや高齢者2人きりの世帯が多く、同居する家族がいても仕事などで家を空けるため、日中は独りになる人がほとんどだ。

 訪問回数は人によって1日あたり1~7回で、平均で約3回。おむつ交換や水分補給、就寝時の着替えや準備など、「自宅で生活を続けるのに必要」と判断したタイミングで訪問し、適切な介助をする。1回あたりの滞在時間は、20分未満のことが多い。

 一方、月あたりの電話相談は計約150回。同法人では、利用者の居室にテレビ電話を設置しており、リモコンのボタンを押せば24時間、いつでも担当者と話せる。

 相談の内容は「寂しいので話がしたい」や「おむつがぬれて気持ちが悪い」「車椅子にうまく乗れず、転倒してしまった」など様々。訪問が必要な場合は、職員が急行する。実際に訪問するのは、約5分の1にあたる月30回程度だという。

 利用者や家族の満足度は高く、年間約10人が自宅でサービスを利用しながら最期を迎える。

 同法人でサービスの責任者をしている宮垣早苗さん(54)は「自宅なら、お酒が飲みたい、自由にテレビが見たい、といったそれまでの生活を崩さずに過ごせる。たとえ寝たきりになっても、自宅は、慣れ親しんだ地域の生活音や、近所の人の話し声などが聞こえて、心を落ち着かせることができる場所。このサービスなら、支えられると思う」と話している。

家族に大きな負担かからず

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 深夜や早朝も含め、24時間体制で訪問に対応するのがこのサービスの特徴だ。

 社会福祉法人・射水万葉会の利用者本人や家族に話を聞いてみると、要介護度が高くても、家族に大きな負担をかけることなく、高齢者が暮らせている状況がうかがえた。

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