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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

コラム

医師に「妊娠を諦めるのも一つの選択」と言われたが、別な病院で「異常なし」 超音波検査の間違いで…

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このまま妊娠を続けて大丈夫

 夜になって夫婦は私に電話をかけてきました。そしてこれまでの経緯をすべて教えてくれました。

 私が最初に感じたことは、産科医の説明が少しおかしいということでした。無脳症や臍帯ヘルニアの可能性があると言うのであれば、それは超音波検査で一目で分かるはずです。産科の先生たちは、目の前の画像検査の結果よりも、医学書に書かれている内容にとらわれているように私には感じられました。

 「まずは落ち着いて。まだ赤ちゃんに異常があると決まったわけではありませんよ。妊娠中絶なんて、とんでもありません。赤ちゃんの超音波検査を別の産院でやり直しましょうよ。それも一日でも早い方がいいです。NTは時間がたつと消えてしまうことがあるんです」

 私は、夫婦に胎児超音波検査に定評のある別の病院を紹介しました。

 翌日、夫婦はその病院に電話を入れ、事情を話し、その日のうちに赤ちゃんの超音波検査を受けることに決まりました。

 今度の先生は比較的若い医師でした。時間をかけて超音波検査の画面をじっと見つめています。あまりにもその時間が長いので、夫婦はまたも不安でいっぱいになりました。医師がおもむろに口を開きます。

 「まず、脳にも心臓にも臍帯にも異常はありません。見える限り、内臓の異常は一切ありません。それからうなじのむくみですが……ほぼ問題にならない程度です」

 「え? 先生、と言うことは……」

 「ダウン症などの染色体異常を積極的に疑う必要はありません」

 「では、なぜ前の病院でうなじがむくんでいると言われたのでしょうか?」

 「うなじの浮腫を観察するのはとても難しいんです。時間をかけて、赤ちゃんが完全に真横を向くまで待たないといけないのです。体の軸がずれた状態で測定しても、正しい厚さはわかりません」

 その言葉に夫婦は心底ほっとしました。女性はその夜、喜びの報告を私に電話で伝えてくれました。もちろん、すべての病気、すべての障害が超音波検査で分かるわけではありません。しかし医師から「このまま妊娠を続けて大丈夫」と告げられ、自分と赤ちゃんが人から認められたような気がして、とても安堵あんどしたそうです。結局、赤ちゃんは40週になり、満期で健常な子として誕生しました。

「計測しません」も一つの見識

 なぜこうした胎児エコーの間違いが起きたのでしょうか? それは、超音波装置の進歩に医師の腕が追いついていない部分があるからでしょう。胎児のうなじの浮腫がダウン症に関係があると学会で報告されると、医師は患者の希望とは関係なく、うなじの厚さのチェックをせざるを得なくなります。検査器機の精度が高いと、誰が検査をやっても「ある程度は」見えてしまうのです。

 しかしながら、医師が1ミリ単位のNTを測定できるようになるためには、1回の検査に長い時間をかけて経験を多く積み重ねなければなりません。そうしたステップを踏んでいない医師が赤ちゃんのうなじを観察すると、こうした間違いが起こるのだと思われます。

 本当に、すべての赤ちゃんに対してうなじの厚さを計測しなくてはいけないのでしょうか? 私の知っている千葉県のある総合病院の産科には張り紙がしてあって、「当科では胎児のうなじの厚みを計測しません」と書かれています。これも一つの見識だと思います。(松永正訓 小児外科医)

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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

 生まれてくる子どもに重い障害があるとわかったとき、家族はどう向き合えばいいのか。大人たちの選択が、子どもの生きる力を支えてくれないことも、現実にはある。命の尊厳に対し、他者が線を引くことは許されるのだろうか? 小児医療の現場でその答えを探し続ける医師と、障害のある子どもたちに寄り添ってきた写真家が、小さな命の重さと輝きを伝えます。

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松永正訓(まつなが・ただし)

1961年、東京都生まれ。87年、千葉大学医学部を卒業、小児外科医になる。99年に千葉大小児外科講師に就き、日本小児肝がんスタディーグループのスタディーコーディネーターも務めた。国際小児がん学会のBest Poster Prizeなど受賞歴多数。2006年より、「 松永クリニック小児科・小児外科 」院長。

『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』にて13年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。2018年9月、『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』(中央公論新社)を出版。

ブログは http://wallaby-clinic.asablo.jp/blog/

名畑文巨(なばた・ふみお)

1958年、大阪府生まれ。外資系子どもポートレートスタジオなどで、長年にわたり子ども撮影に携わる。その後、作家活動に入り、2009年、金魚すくいと子どもをテーマにした作品「バトル・オブ・ナツヤスミ」でAPAアワード文部科学大臣賞受賞。近年は障害のある子どもの撮影を手がける。世界の障害児を取材する「 世界の障害のある子どもたちの写真展 」プロジェクトを開始し、18年5月にロンドンにて写真展を開催。大阪府池田市在住。

ホームページは http://www.fumionabata.com/index.html

名畑文巨ロンドン展報告

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