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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち 松永正訓

医療・健康・介護のコラム

医師に「妊娠を諦めるのも一つの選択」と言われたが、別な病院で「異常なし」 超音波検査の間違いで…

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 数年前のことです。私の知人女性は40歳で妊娠しました。もちろん、夫婦は自分たちが高年齢出産を迎えることは分かっていましたが、あえて赤ちゃんの染色体情報を得るための検査をしようなどとは思っていませんでした。赤ちゃんは授かりものですから、どんな子でも育てていく気持ちでした。

赤ちゃんのうなじにむくみが…

 ところが、総合病院の産科で超音波検査を受けているとき、超音波の探触子(プローブ)を持つ産科医の手がピタリと止まりました。その産科医は、少し離れたところでパソコンに向かっていたもう一人の産科医を呼びました。二人の医師は「これ、そうだよね」などと言い合いながら、時間をかけて超音波検査を続けました。

【名畑文巨のまなざし】
ポジティブエナジーズ(その14) 世界をめぐり撮影したダウン症の子どもたちは、みなポジティブなエネルギーにあふれていました。前回ご紹介したパワフルいおりちゃん、その元気で前向きなエネルギーは、きっと周りにもいい影響を与えているのだろうと感じました。ご家族で一緒のカットもたくさん撮りましたが、みな本当に幸せ感にあふれていましたから。大阪府豊中市にて

 女性は非常に強い不安感にとらわれました。この時、妊娠12週でした。

 検査が終わって、医師は難しい顔で説明を始めました。

 「赤ちゃんのうなじにむくみがあるんです。これを医学用語で『NT』と言うんです。赤ちゃんに何か大きな病気があるかもしれません」

 「病気ってなんですか?」

 不安はますます強くなりました。

 「1週後にもう一度、ご主人と一緒に来てください。再検査をした上で、病気のことも説明します」

「ダウン症や無脳症、臍帯ヘルニアの可能性」と

 翌週、不安を抱えた夫婦は病院を再受診しました。今度も同じ医師二人が超音波検査を行いました。医師がつぶやきます。

 「やはりむくみがあるね。5ミリかな、6ミリかな……」

 検査が終わると、夫婦は医師と面談室で向き合いました。

 「赤ちゃんのうなじにむくみがあると、重い病気を合併している可能性を考えなければいけないのです」

 夫が恐る恐る質問しました。

 「どんな病気でしょうか?」

 「ダウン症とか、無脳症とか、臍帯さいたいヘルニアとか……命に関わったり、障害が残ったりする病気です。あるいは、出産までに至らないかもしれません。妊娠を諦めるのも一つの選択です」

 夫婦はびっくり仰天し、その説明に打ちのめされました。帰宅すると、夫婦はインターネットでNTについて調べました。確かに、心奇形とか口唇口蓋裂とか染色体異常とか、いろいろな言葉が出てきます。しかし、「妊娠を諦めるべきだ」という記載はありませんでした。

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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

 生まれてくる子どもに重い障害があるとわかったとき、家族はどう向き合えばいいのか。大人たちの選択が、子どもの生きる力を支えてくれないことも、現実にはある。命の尊厳に対し、他者が線を引くことは許されるのだろうか? 小児医療の現場でその答えを探し続ける医師と、障害のある子どもたちに寄り添ってきた写真家が、小さな命の重さと輝きを伝えます。

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松永正訓(まつなが・ただし)

1961年、東京都生まれ。87年、千葉大学医学部を卒業、小児外科医になる。99年に千葉大小児外科講師に就き、日本小児肝がんスタディーグループのスタディーコーディネーターも務めた。国際小児がん学会のBest Poster Prizeなど受賞歴多数。2006年より、「 松永クリニック小児科・小児外科 」院長。

『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』にて13年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。2018年9月、『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』(中央公論新社)を出版。

ブログは 歴史は必ず進歩する!

名畑文巨(なばた・ふみお)

大阪府生まれ。外資系子どもポートレートスタジオなどで、長年にわたり子ども撮影に携わる。その後、作家活動に入り、2009年、金魚すくいと子どもをテーマにした作品「バトル・オブ・ナツヤスミ」でAPAアワード文部科学大臣賞受賞。近年は障害のある子どもの撮影を手がける。世界の障害児を取材する「 世界の障害のある子どもたちの写真展 」プロジェクトを開始し、18年5月にロンドンにて写真展を開催。大阪府池田市在住。

ホームページは 写真家名畑文巨の子ども写真の世界

名畑文巨ロンドン展報告

ギャラリー【名畑文巨のまなざし】

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